日本の洋上風力発電に激震が・・
政府のエネルギー政策では、再生可能エネルギー拡大の一環として洋上風力発電を拡大する方針で、次のように目標が設定されている。
(1) 政府による導入目標の明示
2030年までに1,000万kW、 2040年までに3,000万kW~4,500万kW の案件を形成する。大型原子力発電所約40基に相当する電力を確保する目標だ。
(2) 産業界による目標設定
国内調達比率を2040年までに60%にする。着床式発電コストを2030~2035年までに、8~9円/kWhにする
洋上風力発電は欧州を中心に拡大している。自然エネルギーは不安定であるが、洋上の風を利用する事で、太陽光発電から比べれば昼夜差もなく、比較的安定した電力の確保が期待できると期待されている。日本政府は、法制も変えて、洋上地域利用期間を30年に拡大して、普及を目指している。
このなかで、2021年、大型開発プロジェクトの入札が行われ、その結果によって激震が走った。
写真はデンマークの洋上風力発電建設専用船
秋田で2サイト・千葉の1サイト 併せて3プロジェクト、出力合計1,688MW(北海道電力泊原発2基分に相当)という大型案件の入札が行われた。入札基準の上限価格が29円/kWhに設定されていたにも関わらず、蓋を開けてみれば、三菱商事が3サイトを設定価格よりもはるかに低い価格(約12~16円)で総取りしたのだ。他社の応札価格は17~24円となっていた。
三菱商事は予てより欧州では洋上風力発電に相当の投資を行い、2020年にはオランダの総合エネルギー事業会社Enecoを買収し傘下におくなど積極的に風力発電に取り組んできた。今回の安値総取りも、綿密な計算があっての事だと思う。
一般の人間にとっては、大手の商社が責任をもって安い再生可能エネルギー電力の供給を約束した訳で、歓迎すべき結果なのだが、、、業界では喜べない事情がある。
風力発電事業に触手を伸ばしている、電力会社やデベロッパーにとっては、このような低いレベルの先例を作られると、死活問題になってしまう。
今後の案件も三菱商事が総取する可能性もある。
政府も多くの事業体に参画してもらい、普及を加速させたい思惑が狂う可能性感じたのだろう。
今後の入札評価制度を見直して、1社が受注できる上限を設定する、事業計画の迅速性の評価ファクターを大きくする、などの見直し案が出され検討される事態となった。しかし、異論噴出で調整の真最中だ。
洋上風力は風が安定している一方で、海中での工事が必要となり、建設コストを如何に下げるかがポイントとなってくる。
一般的に言われている、着床型の建設コストは50万円/kW、これを先ほどのプロジェクトに当てはめると 総額は8000億円を超える。巨額の初期投資を必要とする事業だ。この為、応札したのも、三菱商事グループ以外には、東京電力、東北電力、JERA(東電/中部電力)・住友商事、九電みらいエナジー(九州電力子会社)、JR東日本、J-POWER(電源開発)など日本の代表的企業、レノバ(新興再生可能エネルギー企業)などが並ぶ。
コスト削減の為に、先行する欧米企業が進めてきたのが、風力発電機の大型化だ。10年程前には、3MW(3000kW)程度の機種が主力だったものが、現在は10~15MW機が開発され、主流となりつつある。三菱商事が採用したものも、米国General Electric (GE Energy)社の12.6MW機だ。3サイトで合計134台が建設される。
下図はGE Energy HP より12MW機の仕様説明
予てよりの原子力・火力発電製品の関係でこのGE製の風力発電機は東芝の京浜工場で組立がされる計画の様だ。もともと京浜工場はGEと提携した、大型タービン工場なので、風力発電機の組立ては、設備・技術的には問題はないだろう。
不安点と言えば、GEの大型洋上実績は、欧州勢(シーメンスガメサ・べスタス)に比べると劣る。今回三菱商事が採用した機種も2019年にプロトタイプが完成し、ようやく国際評価認可が取れた製品である。それゆえに日本市場に対してポリティカルなオファーを出した可能性がある。東芝との連携も国内での事業を円滑に進めるという面では、評価されるだろう。
一方、他の欧州メーカー、オランダのべスタス、独シーメンスガメサグループなどは日本市場を狙い、日本での風力発電機製造の計画を練っていたが、今回のGE製品の採用と、日本政府が入札制度を改めて一事業体による上限を1000MW程度に抑え込む可能性がある事を受けて、生産量の確保リスクがある為、日本市場参画計画を取り消す方針になったと報道されている。
ここに、風力発電機製造の難しさがある。日本でも少し前まで、三菱重工・日立製作所などが大型風力発電機の製造をおこなっていたが、現在はすべて撤退してしまった。今後拡大する市場であるにも拘わらず、なぜだろう
それは、この製品の特長に起因する
・既存製品(部品)の組み合わせと大型化、耐久信頼性の確保が求められる製品。
・事業の効率を上げるには、大きくするのが一番で、洋上向けは巨大化が進む。
三菱商事が採用した、GEの12.6MW機種はローター径が220m・高さは260mと、巨大な構造体になる。
・巨大なタワーや翼ブレード、海洋土木工事、送変電など付帯部分の占める部分が多い
技術的な差別化が難しい製品で、キーはコストとトラブルの少ない事に絞られる。その為には、効率的な生産を継続的に確保できる規模が不可欠だ。日本国内だけの市場では経済的に成立しない為、グローバルベースでの事業と生産計画が不可欠なのだ。
10年前、陸上大型機では三菱重工は米国市場にかなり食い込んでいた
そこにGEがポリティカルに日本排除のパテント訴訟を継続的に行うという手法によって、米国内での販売が実質困難な攻撃をしかけた。この訴訟は2013年パテントのクロスライセンスという形で和解したが、GEが風車事業に対して真剣に取組む姿勢を明確にしたイベントだった。
その後、三菱重工は市場を欧州に転じ、オランダのべスタスとの連携に入ったが、自社製品としての開発製造からは撤退している。
技術的な差別化が大きく計れない製品で、量産と巨大化で生産効率を上げていく性格の事業なのである。一度撤退した日本企業は、GE-東芝、VESTAS-三菱、の様に先行する欧米企業との連携で日本市場を狙うしかない。販売とナセルアッセンブル・建設・保守メンテナンスのパートナーという立場とならざるを得ないだろう。
では、このような状況で、政府が掲げた目標、国内生産比率60%(2040)は、実現できるのだろうか? 筆者は懐疑的に感じている。目標の2040年 4500万kWを前提とすると、一年の規模は約250万kWとなる。仮にGEの12.6MW基で対応すると、約200機/年の市場規模となる。複数メーカーが共存するには規模が小さい。シーメンス・べスタスが二の足を踏んでいる理由がここにある。更にコアとなるパーツを日本で製作できるのか? 外見が巨大で大きな部材である「翼ブレード」の製造には巨大が設備が必要で、有機溶剤を使うという環境対応が必要となってくる。また、タワーは単純な鉄鋼構造物で、その多くは中国で作られて世界中の建設現場に直送されている。世界市場へ供給するサプライチェーンの一環として、その競争力を持たなければならない。
入札制度の見直しで、幅広い事業体を入れたいという意図は分からないではないが、競争力・電力価格競争力という面では、ブレーキをかけるだけになるように思う。プレヤーが大手で企業の信頼性が高いのであるから、自由競争にゆだねるべきではないだろうか。
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