太陽光発電の拡大が引起こす電力危機

日本の電力は、長年安定して停電の発生もほとんどない良好な状況が続いてきた。

電力というものは、現代の生活にはなくてはならないもので、電力会社がだまっていても、安定して供給してくるものと、日本ではほとんどの人が思ってきた。

それが、昨年来、首都圏を中心に、冬・夏 更に次の冬と、予備率の低下により、危機的な状況を迎える状況になってしまった。特に3月16日には福島沖地震の発生により火力発電所6基が停止。その影響が大きく、3月22日は首都圏に受給逼迫警報が出される事態となった。この時は、節電の努力、他地域からの電力融通、揚水発電等によって乗り切った。

しかし、今年の夏も冬も電力予備率は余裕のない状態が続く見通しだ。報道で様々な背景が説明されているが、何故このような事態になってしまったのだろうか、

電力システムは様々な電源と需要、送配電網、天候、が絡む複雑な要因から成り立っている。原因は複合的なものといえるが、一番直接的な原因は太陽光発電の拡大と、それに伴い火力発電所が追いやられ稼働時間が少なくなり適正に運営操業が出来なくなった事だろう。

自然エネルギー利用が進んだからいいだろうとのんきに思われる方は是非、太陽光発電がわがままで、自立できない存在である事を理解してもらいたい。全体を理解したうえで、電力の安全保障/安定維持と地球温暖化問題を考えてもらいたいと思う。

まず太陽光発電がどのくらいの規模になっているかといえば、日本は世界で第三位の設備容量をもつ。

この設備容量が、理論的に各地域の電力需要のどの程度をカバーできるのかを示したものが次の図である。(出典:エレクトリカルジャパン発電データベース)太陽光が設備能力の100%発電できれば、首都圏でも需要の60%近く、中国・九州・四国ではほとんど100%の需要を賄える事になる。但し、当然ながら晴れて太陽が出ている事が条件だ。

夜は出力0、天候が悪ければ出力は10%程度に落ち込む。要するにあてにならない、その不安定さを補うサポート役が不可欠なのだ。蓄電池や揚水発電など調整役はあるが、これだけ太陽光が拡大すると、調整役としての規模は極めて限定的だ。火力発電所がその重要な役割を果たしている。

典型的な実例として、電力逼迫となった3月22日と、その前の21日の太陽光発電量を比べると、その不安定さがよくわかる。

21日は天候がよく、東京電力管内の太陽光発電出力は12560MWと需要の約40%に達している。ところが翌日22日は雨で出力は一気に1790MWへ落ち込む、そこに地震による火力発電所の停止が追い打ちをかけた訳だ。

球温暖化が問題視されている中で、化石燃料を使う火力発電所には悪者的なレッテルさえ張られている。太陽光発電を活かすために、火力発電所の運転稼働率は低くなり、大変効率の悪い操業を余儀なくされることになる。そうなれば火力発電設備を持っている電力会社や企業は、設備の停止、老朽化設備の廃止、維持管理費の削減を行う。設備の保守維持体制はすでに脆弱なものになってしまった。加えて、

日本の広域電力系統の脆弱性がある。特に東西で60Hz/50Hzが混在している日本の歴史的な特殊事情もあり、電力融通に限界がある事も運用を難しくしている。

付け加えると、政府は原子力発電所を9基稼働させて安定化を図ると言っているが、原子力発電所はベースロード電源と言われて、負荷調整には時間がかかる。毎日太陽光に合わせて負荷調整が出来るものではない。電力の需給バランスの重要な調整役を担っているのは火力発電なのである。

日本の電力危機は、このような背景により生じている事を認識して欲しいと思う。

今年の電力危機で、日本の電力設備構造の問題が露見した。自然エネルギー利用100%と謳っている新電力会社もあるが、実態はグリーンエネルギー制度に相乗りした、砂上の楼閣的存在であり、電気の実態は100%自然エネルギーではない(マイクログリッドなどは別)。既存の火力発電所がないと、グリーンエネルギーは成り立たない。電気を使う方も、これらの問題点を理解して欲しい。

世界的な視点では、ロシアのウクライナ進攻により、エネルギー安全保障の問題を世界中が認識した。

日本は化石燃料資源をほとんど持っておらず、この観点からは自然エネルギー利用比率を拡大しなければならない、しかし、それは同時に安定化を実現する全体的な視点での長期的な取り組みが必要だ。

EneCockpit

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