電力システム改革は成功しているか?
関西電力が法人向けの電力プランの新規契約を4月中旬に事実上停止した。ロシアのウクライナ侵攻を受け世界的な燃料高騰により、卸売市場で調達する電力価格が高騰しているのが直接的な原因だ。旧電力会社は送配電会社を通じて需要家に対して「最終保証供給」という2割増しの価格で電気を供給するセーフティネットを負っているが、関西電力は2割増しの価格以上の電力プランしか法人に提示できなかったものと思われる。旧電力会社系列以外の電力小売業者は冬場の調達価格高騰に加え今回のウクライナ問題で電力供給を停止する電力小売業者が相次ぎ、新電力と契約していた法人が供給元を旧電力会社系に切り替えるよう殺到しているが、対応できてない。実際名古屋市は各区役所で使う電気の契約先が見つからず、大手電力系の中部電力ミライズに契約を依頼したが断られたと報じられている。
電力システム改革が鳴り物入りで法案が提出されてからほぼ9年がたち、体制は整い運用も開始されているが、「想定外」の事態に国は立ちすくんでいる。今回の事態が本当に「想定外」だったのか?検証してみよう。
電力システム改革は地域独占、総括原価方式、電力の供給責任は電力会社一社が負うという従来の形態から、改革後は国内全体で広域系統運用を行い、発電、小売りは自由化、送配電会社は総括原価方式で電気の品質と最終供給責任を負うという形態に変えた。よって雨後の筍の様に新電力が立ち上がり、最初に自由化された高圧から一般需要家(住宅)にまで電力小売りのセールスが行われた。新電力は市場で電力を購入しそれを需要家に販売するので、契約にもよるが平時は安く仕入れた電力を契約価格で需要家に売れるので利益が大幅にでる。春、秋の昼間など太陽光の電力が期待でき冷暖房の必要のない時期はタダ同然の調達価格で仕入れることができる。一方、今年の冬場の様に電力市場調達価格が頭打ちの80円になると小売価格の30円内外との差は大幅となり、損失に拍車がかかる。そこに今回のウクライナ危機と円安が加わり、燃料費調整費用をはるかに超えてしまったわけである。
そもそも電力システム改革の3つの目的は1:安定供給を確保する 2:電気料金を最大限抑制する 3:需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する であり、そのために1:広域系統運用の拡大 2:小売り及び発電の全面自由化 3:法的分離方式による送配電部門の中立性の一層の確保がシステム改革の3本柱として立ち上げられた。
今まで大手電力会社が供給責任をその地域で担っていたため日本の送電線系統は意外と弱い。かつ西側と東側で60Hz と50Hzに分かれていて、四つの島で構成されている日本では(除く沖縄、離島)送電系統は串形になっている。欧州が平面的な網型系統になっているのとは大きな違いがある。広域運用の拡大は北海道の風力で発電した電気を関西地区にも送電できるよう日本全体で送電の闊達化を目的として送電線の使用ルールの変更や北海道と東北間の直流送電の増強化などが計画されている。この間、北海道で胆振地震が発生し、震源地近くの苫東厚真発電所のタービン116万kWが停止し、その後も機械保護のため他の水力等もトリップし、結果的に周波数維持が追いついていかず道内全体でブラックアウトとなった。この時東北からは最大値の60万kWを直流送電したが、その電力だけでは道内の周波数維持ができなかった。時期が冬でなかったので人身への影響はなかったが、これが真冬ならかなりの人が凍死しただろう。電力システム改革で送電系統の増強を行うことはこの改革の中で評価できるポイントである。
地球温暖化対策で発電から発生する二酸化炭素を減らすという高尚な目的のため、石炭発電所を可能な限り減らし、2050年には実質地球温暖化効果ガスをゼロにするというのが日本の目的である。第六次エネルギー基本計画では新たなエネルギーミックスとして2030年に2019年より化石エネルギー由来の発電を46%減らし、非化石の発電割合を2019年の24%から59%に増やすというチャレンジングな目標を立てた。その中には21%の原子力発電が入っていて、再エネは37%である。経産省はFIT(Feed in Tariff)制度を設定して再エネの浸透を援助している。制度が始まったころは事業用太陽電池でも40円/kWhで購入され大儲けした事業者が後を絶たなかった。現状では10円あるいは大型の太陽電池発電所は入札制になったが、日本国内至る所に黒い太陽電池が設置され土砂崩れの原因にもなりまた風光被害を齎している。太陽電池以外の風力や地熱、木質バイオ発電などにもFITは適用されているが、その費用の需要家の負担金は年間2.7兆円にも上る。今年の冬場の電力危機が発生した日は積雪時のため太陽電池はほぼ役に立たず、一方、4月中旬の暖かい晴天時には東北電力管内で発電に制限を掛けざるを得ない状況であった。
一方、ドイツは原子力発電を止め石炭は温暖化対策で縮小し、風力と太陽光とロシアからの天然ガスの輸入で賄うというエネルギー戦略を立てていた。天然ガスはノルドストリーム2が運用される前でもロシアから全体で50%以上の輸入を行っている。最初は「あれは民間事業だから」といっていたショルツ首相もウクライナの惨状が世界に流れると、さすがにノルドストリーム2の運用は行わないという方向にチェンジマインドした。風力と太陽光は当然のことながら天候に依存し、かつ慣性力も伴わないため周波数維持への寄与度は小さい。日本と違い欧州全体で広域に網目の送電系統を敷いているため、欧州全体で風も吹かず太陽も照ってないというのはあり得ないので、そこの点は有利だが、昨年夏のスペインでは風が吹かず風力発電は軒並み出力が低下して電力代が4倍になるという事態も生ずる。欧州のエネルギー戦略は二酸化炭素排出火力、特に石炭火力を閉止し再生可能エネルギーが醸成されるまでは天然ガス火力でバランスを保つという戦略を描いていたが、ここにきて英国は原子力の復活を宣言している。フランスは原子力に軸足を置き安定運用だけでなくドイツなどに電力の輸出を行っているほどで、ロシアへの依存度は低い。
日本はどうだろうか? 原子力をタブー視し不安定な再生エネルギーを隠れ蓑にして長期に亙る戦力を描けていない。その中で電力システム改革を行ったことで、色々な欠陥が明らかになってきている。
電力システム改革の戦略で最も間違ったと考えられるのは、最終電力供給責任を発電所を持ってない送配電会社に負わせたことである。送配電会社は平時の周波数調整のための電力需給調整(△kW調整)は確かに責任を持って行い、その機能を有しているが、今回のウクライナ危機勃発と円安が進んだ戦時の調達責任(kW並びにkWh調達)を本来負えないはずである。計画ではkW並びにkWhは電力事業者がコスト競争を経て安くて安定的な電力(kW並びにkWh)を供給可能という発想だったので、今回のような事態は「想定外」であった。最も送配電会社は「稼がなくてはいけない」会社ではなく、「総括原価方式」の会社のため結局最終的なツケは需要家に返ってくる。一方、高い電気代でしか調達できない小売業者は端から倒産していく。
9年前に国が描いた電力自由化のための電力システム改革は平時の時はうまく回るシステムだが、戦時には至る所にほころびが見えてきた。想定外と言ってしまえばそれまでだが、エネルギーに乏しい日本では原子力発電所の再起動、再開発をまともに議論すべき時期が来たのではないか。ウクライナ問題と合わせて論じれば、左翼学者、政治家、マスコミも議論に入らざるを得ないだろう。千載一遇の時期(チャンスとは言えないが)と考える。
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