次世代原子力SMR(小型モジュール炉)は普及するのか?
写真はSMR(小型モジュール炉)の実用初号機と言われているロシアのフローティング型原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」Photo by Rosatom
日本では福島第一の事故により原子力発電に対する安全疑念が大きくなり、現存する60基の発電所のうち再稼働に至った発電所は10か所に留まり、廃炉方針が決まったものは24基におよぶ。しかし、原子力は地球温暖化ガスを出さない電源のオプションであり、各国で活用が進められている。
このような状況の中で、次世代の原子力発電技術SMR(Small Modular Reactor)が脚光を浴びている。既に約70の機種が世界中で開発中だ。日本政府のエネギー基本計画にもSMRの開発推進が含まれている。
SMRとは、どのようなものなのか、何故注目されているのか、普及する可能性はあるのか、という視点から考えてみたい。
・SMRとはどのようなものか
出力はIAEA(国際原子力機関)の定義では、出力が30万kW以下とされている。小さいものでは5000kW程度の小型のマイクロ炉と呼ばれるものもある。 大型原子力発電所の出力は、例えば東京電力柏崎6・7号機は、各136万kWである。SMRはこの4分の1以下と小型だが、単に規模が小さいだけではない。プラントの構成機器をコンパクトにモジュール化して工場で組立、量産する事で建設コストを抑え・工事期間も短縮できる形態のものをSMRと呼称している。
・何故SMRが脚光を浴びているのか、次のようなメリットがあると言われている
① 建設費の低減と建設効率化:
炉だけでなく関連構成機器をモジュール化する事によって、コンパクトで効率的な構造とし、工場での組み立て範囲を拡大し量産をすることでコストを下げる事が出来る。この背景には、大型原子力発電所の建設コストの高騰がある。米国では原子力発電所の建設コスト高騰により東芝(ウエスチングハウス)が経営破綻するきっかけにもなった。最近の大型原子力発電所の建設コストは、コストの高騰や安全対策強化の為に、1プラントで1兆円は軽く超えると言われている。これは2011年以前の建設コストの2倍以上のレベルである。更にバックエンド処理や廃炉費用まで含めると経済面の有利性は崩れている。この解決策としてSMRが期待されている。工期についても、従来の大型原子力発電所には計画から完成まで約10年と言われてきたが、これを3~4年で完成させる事が出来ると期待されている。
② 柔軟な運用が可能:
大型炉は、規模が大きく設置場所が限定される。さらに定期点検などで停止した場合は、単機出力が大きい為に影響は大きい。これに比べて、SMRは規模が小さく、設置場所の選定が広がる可能性がある。既存の石炭焚火力発電所をSMRに更新し、地球温暖化対策とする案も出ている。更に複数モジュールを設置する事で運用リスクを分散させる事が出来る。従来の大型軽水炉では出力の調整には時間がかかる為、需要に対する調整電力としては適していない。SMRには高い負荷調整能力を考慮した概念設計を行っているものもあり、複数基を分散設置する事で柔軟な運用と出力調整が出来る可能性がある。
③ 安全性の向上:
想定外の事故により、炉を緊急停止した場合、炉心に残る崩壊熱は定格出力の7%程度となる。例えば136万kWの大型炉であれば、崩壊熱は10万kWほどになる。これに対応する冷却機能の維持確保が必要となり、様々な安全維持対策を講じなければ熱暴走に至るリスクがある。福島第一の事故は、この冷却機能が失われた事によって引き起こされた。これに対して出力の小さいSMRでは崩壊熱は小さく、自然冷却により安全に管理できる設計が可能と言われている。
・各国の取組
SMRは各国で導入の検討が行われているが、小型炉は古くから艦艇・潜水艦に使われており、これらを保有している米国・ロシアなどでは設計・運用・廃炉まで既に様々な運用経験がある、ロシアでは北海の砕氷船に60年前からロシア国営原子力企業「ロスアトム」製の小型原子力機関を使ってきた実績もある。 下の写真はロシアの原子力砕氷船 Arktika, Photo by Rosatom
この実績に基づいてSMRへ発展させている結果、ロシアでのSMR実用が一番進んでいると言われている。既に北海でSMRのベースとなる小型原子炉を搭載したフローティング型原子力発電所設備「アカデミック・ロモノソフ」が2019年より稼働している。小型炉2基を積載しており、出力は電力量70MW+熱量300MWとなっている。ロスアトムは同型のSMRをアフリカ諸国へも提案していくと説明している。 (参照:冒頭写真)
・日本でのSMR開発の状況
日本では原子力メーカーの代表である、三菱重工と日立製作所がSMRの開発に取り組んでいる。
三菱重工 は小型炉について1969年進水の原子力船「むつ」の動力炉から開発を行ってきた。また小型モジュール炉としては2000年代に「一体型モジュラー軽水炉(IMR)」の開発を行った。日本企業の中では一番経験があるといえるだろう。同社はSMRを将来炉と位置付け,2020年には概念設計を完了したと発表した。国内の電力会社と今後の実現に向けて協議を開始している模様だ。軽水小型炉,高温ガス炉,コンテナ型のマイクロ炉や舶用推進も視野に入れた幅広い分野で開発を進めている。出力も300MWから5MWと幅広いが、実用時期は2030以降と考えているようだ。
日立製作所は 米国GEと組んだ「 GE日立・ニュクリアエナジー」がBWRX-300型(沸騰水型軽水炉)をカナダ向けに2022年中に建設許可申請する事を目指している。早ければ2028年に運転を開始しする計画だ。また建設コストを大型炉の半分以下約US$3000/kWレベルをターゲットとしている。(写真は概念図 GE日立HP)
他にも、IHIと日揮は米国のSMRスタートアップ企業であるニュースケールパワーに資本参加して米国でのSMRの商用化を目指している。
・SMRは普及していくのか?
各国で開発が行われているSMRだが、本当にメリットがあり、普及していくのだろうか? これは予断を許さないと思われる。 原子力に積極的な国では、普及は進んでいくものと思われる。しかし日本を含む原子力に慎重な世論がある国では、そう簡単ではないだろう。 SMRがより安全な設計だと言われても、そもそも疑念を持っている人たちが簡単に理解を示すとは思えない。既存の原子力発電所の安全対策強化後の形態に比べて、SMRがより安全だと本当に言えるのか、既に様々なシンクタンクからも疑念が呈されている。
また、建設費の削減と建設期間の短縮について、本当にどこくらいの競争力のあるものになるかが見えない。GE日立のカナダの案件が実現完成し、目論見通りの低コスト短納期が可能という結果が見えてくれば、世界中の新規原子力案件は漸次SMRになっていく可能性は高いと思われる。
しかし、日本はじめ原子力政策に慎重な国々では、新規の原子力発電所計画が世論の支持を簡単に得られるとは思えない。日本での普及という観点では、完全な新規ではなく、時間はかかるだろうが既存発電所の廃炉とセットになったリプレースとしてSMRが浮上する可能性はあるだろう。
したがって、日本企業はまずは海外への展開に向けてSMRの開発を加速していくものと思う。
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