日本の原子力はどうなるのだろうか?

2011年の東北大震災と東京電力の福島原発事故を契機に日本中の原子力発電所は稼働を停止し、安全対策をやり直すことになった。事故から11年たった2022年2月の段階で稼働している原子力発電所は全体60基のうち10基に留まっている。 停止中の設備では、既に廃炉とする方針が決まったものが24基、今後再稼働を計画している発電所が17基、方針未定のものが9基という状況にある。 日本のエネルギー基本計画2030では、この再稼働計画中の原発17基をすべて再稼働させるという前提で温室効果ガスを削減する目論見となっている。 あと8年という期間で再稼働させるには、原子力行政に対する地元住民の賛同が大きなネックとなってくることは間違いない。ハードルは大変高い。

 そもそも、原子力発電所は資源のない日本にとってはエネルギー確保の観点から不可欠なもので、温室効果ガスを排出しない電源として建設が進められてきた。世界的にもこの流れは強く、2011の事故以降も、世界各国で建設。稼働は続いている。 2011~2020年に運転あるいは建設を開始した原子力発電所の数は次の通りだ。 中国が圧倒的な数で建設を進めている事がわかる。

国名      送電開始  建設開始  

中国       37    22 

ロシア      10     3 

韓国        5     4 

UAE        1     4 

インド       3     4 

パキスタン     3     4 

米国        1     4 

ベラルーシ     1     2 

トルコ       0     2 

バングラデシュ   0     2 

ドイツを筆頭に脱原発・廃炉の計画を進めている国がある一方で、原子力は引き続きベースエネルギーとして各国が建設を進めている状況にある。2022年1月にはEU委員会が原子力発電を地球温暖化問題の対策として認定した。この背景にはフランスの力が大きく働いている事は明確だろう。フランスは世論も原子力発電支持が大勢で、電力の71%を原子力によって賄っている、さらに東欧ポーランドへの新規計画も支援する模様だ。

写真はアラブ首長国連邦(UAE)アブダビに建設されたBarakah Nuclear Power Plant (NPP) in Abu Dhabi 2020年8月に一号機運転開始(APWR1400/出力134.5万kW)

日本も福島第一の事故以前には、原子力をベース電源としての活用を推進するだけではなく、世界各国の新規原子力案件へのインフラプラント輸出を加速する為に、政府の支援も強く、各企業が事業推進を進めていた状況だった。それが2011年の事故によって大きく変わっていった。 (下図マップ:日本電気事業連合会資料 原子力発電所の現状) 


原子力はひとたび炉心事故を起こせば、チェルノブイリ・スリーマイル島・福島の事例に見るように、甚大な影響が長期に渡って起こることになる。このリスクを認識した上でも、各国が原子力発電計画を維持推進するのは何故か? それはエネルギー確保の安全保障・政治の問題に収束するだろう。 経済理論だけなら、度重なる安全対策の強化によって、建設運営維持のコストは上昇の一途をたどっている、またバックエンド処理・廃炉に要するコストも多額になってくる。その為、原子力が安価で安定した電源としての位置づけが崩れ始めている。 しかし化石燃料・自然エネルギーともに地勢的な不均一と問題が常に付きまとう。原子力というもう一つのエネルギーソースを確保する事で、リスクを分散させるという考えは必要。特に資源のない、周辺国との電力ネットワークもない島国の日本では重要なのである。 選択と集中という経営手法が脚光を浴びた時代もあるが、エネルギー政策では堅実な判断とはならない。 既に日本では原子力発電所の安全見直し検討の結果、稼働維持できるものと、見直すべきものが選別されつつある。適正な原子力発電所をエネルギー選択肢として維持すべきであろう。 

原子力形式の歴史 

現在、日本には廃炉が決定したものを除くと、36基の原子力発電所がある。形式と稼働状況は次の通りとなっている。  

形式/①再稼働中 ②未稼働(許可変更・申請中・未申請) 

PWR(Pressurized Water Reactor: 加圧水型軽水炉)① 10基 ② 6基 

BWR(Boiled Water Reactor:沸騰水型軽水炉)  ①  0基 ② 20基 

 再稼働された10基の形式はすべてPWRとなっている。歴史的にPWRとBWRは電力会社と重電メーカーで競争の結果、色分けがされてきた。東京/中部/東北各電力はBWR(米GE/東芝/日立)。 関西/北海道/九州/四国各電力はPWR(米ウエスチングハウス/三菱重工)となっている。 

なお、フランスは58基の原子力発電所すべてがPWR型。 また、UAEのBarakah発電所はじめ2020年に稼働した各国の原子力発電所5基はすべてPWR型で、PWRが世界の主流となっている。 設計的にPWR型はリスク耐性に余裕がある構造と言われている。日本で再稼働が許可された10基も、このような理由により、追加の安全対策が講じやすかったのが一因だろう。 因みに東京電力の福島第一原発は米国GE社のBWR型の初期の設計のものである。 

(下写真:建設が遅れている米国の最新原子力発電所Gergoa Power Vogtle 3/4 AP1000型:出典GeorgiaPowerHP)


日本のPWR型原発はすべて三菱重工製(米ウエスチングハウスとの技術協力)である。ウエスチングハウス社は米国の老舗重電メーカーだったが、英国の核原子力燃料BNFL社に買収され、更に2005年には東芝が買収する事になった。この当時は、米国はじめ世界各国で原子力発電所の新規計画が浮上し、且つその主流はPWR型になるだろうと予測されていた。その為、BNFLは売り時と判断したのだろう。当時のウエスチングハウスの企業価値は2000億円+α程度と判断されていた。もともと協力関係にあった三菱重工は当然買収に手を挙げたのだが、結果的には東芝が6000億円という破格の価格で落札する結果になった。当時の東芝トップが原子力部門出身で事業拡大に過度の熱を上げ、冷静な判断が出来なかったのだろう。

その後、日本では福島第一の事故が発生し、米国では原子力建設コストが暴騰するなど、東芝が予想していたのとは異なる事態が発生する事になった。

この高値買収はその後の東芝の事業混乱の大きな要因となっている。2017年3月、ウエスチングハウスは建設中のGeorgia Power Vogtle発電プロジェクト(上写真)が原因となり連邦破産法11条(通称チャプターイレブン)を申請し、経営破綻。東芝は7000億円を超える損失を計上し、債務超過に陥る事になった。 

結果的には一番得をしたのは、ウエスチングハウスを売却したBNFLと言われている。1999年に同社がウエスチングハウスを買収した金額は12億ドル、為替@115とみれば、4600億円の利益を得たことになる。この取引でBNFLへのアドバイザーとして暗躍したのはM.N.ロスチャイルド&サンズ銀行(英国の投資銀行・ロスチャイルド財閥傘下)と言われている。結果的に一番の貧乏くじは日本企業が負う結果となった。

EneCockpit

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