冬場電力危機一髪

2022年が明け通常業務に入った1月6日に、東電管内に激震が走った。今年の冬は暮れから西高東低の冬型の気圧配置が続き、東京の気温は低めだが晴れの日が年末年始続いていた。6日は数日前から低気圧が関東沖を通ると予報されたが八丈島より南を通過するとのことで、東京では雪は降ってもわずかであろうと予想されていた。ところが、5日になり小さい低気圧が房総沖に出現し、6日は昼から本格的な雪になる可能性が指摘された。東京の雪の予想は難しく、わずかな低気圧の通過位置の違いや気温が0.5℃違うだけで雨になったりすることもあり天気予報士泣かせである。今回は冷気団が関東まで張り出し、新たに出現した低気圧の影響もあり時間を追うごとに雪の予報が有力化してきた。

予報通り昼頃から本格的な雪になり、23区でも道路はうっすらと積もり始め、気温は0℃を下回り続けた。雪のため太陽は地上に届かず、そのため冬の晴天時は東京電力管内の20%近くにもなる太陽光発電の電力は期待できない。

太陽電池が震災後の再生エネルギー導入政策のFIT(Feed In Tariff: 一定価格での発電電気買い取り制度)により日本各所に建設され、日本の美しい山河の風景を毀損しているのは近年問題になっているが、太陽電池は所詮太陽が照らなくては発電しない。よって、当たり前だが太陽電池の発電能力をそのまま期待することができないのは自明の理である。日本での最大kW需要は昼間のクーラー需要に引っ張られた気温高時の夏の昼間である。太陽電池の導入が闊達でなかった頃には、電力会社はその時点で電力供給に支障が無いように、原子力発電所、火力発電所の容量を決めていた。最大電力需要で決めるため、燃料費が高い火力発電所は最大電力需要時以外は停止が多く、稼働率の低い火力発電所は一年中スタンバイ状態となっている。太陽電池の設置がFIT政策により闊達になると、電池合計の発電能力はかなりの割合を占めるようになり、特に真夏の昼間は太陽光線の対地角度も大きく、火力発電の必要容量は以前の様に真夏の最大需要時のkWだけでは決まらなくなった。

一方、冬場の一日の最大電力需要は夕方に発生する。事務所、工場はまだ稼働し、冬の早い夕暮れが近づく16時過ぎ、明かりを灯し始め夕餉の支度に取り掛かるころ、電力需要はピークに達する。晴天時は15%以上の出力を担う太陽電池は陽が傾くに従い、その発生出力が低減され、17時にはほぼゼロに達する。従い、その時点で需要を満たす電力はほぼ原子力と火力発電が担うことになる。

1月6日は雪と寒さが厳しくなった夕方に東京電力管内の需要/供給能力が98%に到達し、予備力が2%となった(東電パワーグリッドでんき予報より)。送配電会社(東京電力パワーグリッド)は必要供給力を厳気象時の予想需要の3%増しで決めている。3%としているのは機器の予想外のトラブルなどを考慮してのことであり、発電側は既に規定出力以上の焚きましや通常動いてない発電所の稼働などありとあらゆる対策を行って対応した末のことである。東電PGは1月6日の午後には発電側の対策に加え、他の送配電会社に最大約265万kWの緊急融通を依頼して難を乗り切った。

昨年の冬も同じように電力危機が発生した。2021年の1月8日厳寒想定予想を中部電力、関電、中国電力、四国電力、九州電力管内で上回ったのに加え、LNGの十分な調達ができず、kWh不足に陥った。国内の発電量の37%を担うLNG火力の燃料としてのLNGは、長期契約(take or pay)がほとんどで、スポットでの調達は少ない。またスポットで調達できても日本に届くまで2か月程度を有し、すぐ戦線に投入できない。一方、国内でLNGを長期保管することはLNGが貯蔵時に気化する性質のため不向きで、LNGは本来長期での計画をベースに使用する燃料である。今冬は欧州で価格がまず急騰した。欧州は天然ガスをロシアから輸入するが、ウクライナ情勢が急を告げロシアの売り惜しみがあったのかもしれない。

昨年、電力のスポット価格は通常10円/kWh程度であるのに対して最大251円/kWhをつけ、インバランス価格も一時500円/kWhを超えたため、経産省は電力小売業者保護のためインバランス価格の最大値を80円と200円の二段階に抑える通達を出した。なおインバランス価格とは電気の小売り業者が電力を調達できない場合、送配電会社が代わりに調達するが、その時小売業者が送配電会社に支払うペナルティーみたいなものである。経産省の通達により最大価格は下がったものの、スポット価格の高騰やインバランス価格の高騰により電気小売り業者の経営が成り立たなくなり、春には大手のF-Powerは会社更生法を申請せざるを得なくなった。因みに電力小売業者は通常時に低廉な価格で電力を買い集め30円以上で小売りして大幅な逆ザヤを得るときは許され、価格高騰の時は国に泣きつくというのは経済ルールから如何なものかとも思う。

2020年度の冬の電力危機の反省から、エネ庁は各電力事業会社にLNGの十分な調達を2021年度冬季には行うよう指示を出して、各事業会社は冬場の電力供給に十分な燃料を集めていたはずである。しかし、2022年の東電管内の電力危機は単純に燃料の問題ではなかったようである。

電力システム改革前は電力会社は地域独占で総括原価方式の採用を許された一方、電力の安定供給に責任がある。従い、厳気象時対応の石油火力なども所有し、維持してきた。電力改革により旧電力会社であっても発電事業会社の一つであり、本来電力供給責任は負わない。色々な発電事業会社が参入することで競争下に入り、電気代が高ければ電気が売れないこと、即ち会社の収入がなくなるためコストダウンは必須である。現在のルールでは電力供給責任は発電所を有してない送配電会社が追う事になっており、そのため送配電会社は発電会社から切り離されたとともに総括原価方式が認められている。また更に再生エナジブームで太陽電池を設置すればすべて解決すると思っている輩がのさばり、化石燃料を使うことは悪との印象が植え付けられ、かつ再生エネルギー由来の電力にプレミアが付くとともに化石燃料由来の電力を使わない選択をする事業者が増え、旧式の化石燃料を使う発電所は停めざるを得なくなった。一方、経産省は昨年冬の電力危機に焦って、今年度からは旧式の化石燃料火力(主に石油燃料)を休止するには事前に報告する義務を突きつけた。

国内の石油火力はオイルショックを契機に稼働率は低くなり、年間運転時間が数十時間というのも珍しくない。今冬でも東電は姉ヶ崎5号(600MW)を再稼働可能な様に修理を行い、戦線に復帰した。戦線に復帰していなかったら予備率は2%を切っていいたかもしれない。姉ヶ崎5号はLNG仕様のボイラ/蒸気タービン通常火力発電所であり、効率は40%そこそこである。一方、同じLNGを使用する最新式のガスタービン複合発電所の効率は65%を超えている。高いLNG使用し効率がはるかに低い通常火力は経済原理上またCO2発生低減の観点からもその役割は終了していた。

しかし、わずかな厳気象条件でしか運転しない火力の電力収入はとても維持費用に見合うはずはない。旧電力会社(発電会社)には脱CO2と電力代低廉化とピーク時の火力運用という共存解の無い問題を突きつけられているというのが本音であろう。電力改革後の営利企業としては本来受け入れられない条件だろうが、そこは大人の振る舞いで電力安定化に努めているのは評価してあげてもよいのではないか。

日本のエネルギー政策は第6次基本計画を掲げ、2030年には2013年からCO2発生量を46%低減し、2050年には実質ゼロを表明している。2030年には発電量ベースで再生エネルギーで37%、原子力で21%、LNGで20%、石炭で20%の割合を明記している。再生エネルギーは2019年の18%に比べ倍増である。再生エネルギーでの発電量を増やすため、再生エネルギー発電を設置する余地(土地)が残っている北海道、九州から首都圏、関西へ送電する送電網の強化に3.8兆円から4.8兆円を掛けると経産省は豪語している。しかし今年の欧州の様に風が吹かず、かつ日本全国寒い冬の夕方は送電網の強化では対策にならない。かつ古い火力発電所は今後も退役が続く。電力を貯める揚水発電所は立地が無く、蓄電池は役不足だ。一体どの様な全体設計図を描いているのだろうか?

EneCockpit

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