海運は帆船大航海時代へ、90%自然エネルギー利用
海運での自然エネルギー利用の取組が進められている。商用海運から排出される地球温暖化ガスは全体の3%を占めていると言われている。 風力推進装置を実装した世界初の大型船は2022年に就航する商船三井の石炭運搬船となる。硬翼帆式風力推進装置(ウインドチャレンジャー)を搭載し、大島造船所で建造される。日本と米国東海岸航路で約8%のエネルギー削減を計画している。東北電力向けの石炭を輸送する船が自然エネルギーを活用する事で、全体としてCO2排出の低減を実現するという構図だ。
しかし、更に挑戦的な計画設計が発表されている。
スウェーデンに拠点を持つ海運会社Wallenius Marineと機械メーカーAlfa Laval(世界的な熱交換器・遠心分離機・バラスト水処理機器メーカー)とのジョイントベンチャーAlfaWall Oceanbirdが進めている「Oceanbird」プロジェクトだ。
写真はOceanbirdコンセプト図、出典:同社HP
このプロジェクトでは風力推進利用でCO2排出量を従来の船にくらべて90%削減するという挑戦的な計画になっている。自動車輸送船をベースに近海離着接岸操船以外のほとんどを風力推進でまかなうという計画だ。
- Oceanbird概要
- 7000台積自動車運搬船
- 全長200mx幅40m
- セール高80m×5枚(20mまでリーフ可能)
- 運用速度 10ノット
- 就航予定 2025年
当然ながら風力推進システムには巨大な可動式セールが必要で、デッキ上部にセールを設置する必要がある為、レイアウトがやりやすい、自動車運搬船やRORO(ロールオンロールアウト)型の船が選定される事になる。コンテナ船はデッキ上がコンテナ積載スペースとなっており、LNGやケミカルタンカーも貯蔵の為の機械設備が船の大半をしめている為、設計がやりにくい。 商船三井の風力推進システム船ウインドチャレンジャーは石炭運搬という比較的単純な構造の船体ではあるが、カーゴの搬出入作業が上部デッキから行われるタイプなので、セールの配置には工夫が必要となる。ウインドチャレンジャーの場合はセールが一番船首(バウ)に一枚だけ配置されている。これでは利用する風の量も限られ、風向も狭い範囲となってしまうが、カーゴハンドリングを考えた結果、常にエンジンを併用して運用するという計画で風力利用を抑えたものだ。その結果、風によるCO2排出改善は8%にとどまった。 写真ウインドチャレンジャー 出典:商船三井HP
技術的には、風力を出来るだけ利用して船の操船性能を維持するには、船体の水中の抵抗中心位置とセールから受ける風の受力中心を出来るだけ近づける必要がある。 最新のセールボートの場合は、最適設計によって、風向に対して約45度の風上まで船は推進する事が出来る。 そこまでは無理でも、最適なセール配置と船型設計によって、大型船も風上航海での風力利用が可能となってくるだろう。 例えば船首(バウ)にかかる風力が強い場合は、船体を風下に向ける力(リーヘルム)が強くなり、風上方向への航海では風の利用が制限されることになる。 逆に船尾(スターン)にかかる風力が強い場合は、船体を風上に向ける力(ウエザーヘルム)が強くなる為、風下航海で船の推進コントロールが難しくなる。Oceanbirdの場合、セールは全体で5枚あり、船首から船尾まで均等に配置されている。この為、単にセール面積が多いだけではなく、船体にかかる風力のバランスも均等化して幅広い風向の風が利用できるものと思われる。 風力利用で重要な点は、セールの受風力を天候風量に合わせて柔軟にコントロールする事である。特に荒天時の対策は重要だ。巨大なセールから受ける力を低減させる必要がある。 Oceanbirdが計画している自動車運搬船の場合、船体の構造上、高さがあり横方向の投影面積が非常に大きい。その為、横からの強風の影響を受けて操船不能となり、座礁するという事故が多く発生している。もともと風に弱い自動車運搬船に更にセールをつけるという事なので、運航操船上の問題が発生しないように対策は重要だ。前出のOceanbirdイメージ図を参照頂ければ、一目瞭然だろう。
Oceanbirdのセールは高さの調整が可能で、通常は高さ80mあるセールを20mまで縮帆(リーフ)する事が出来るように設計されている。とはいえ、ただでさえ風の影響を受けやすい自動車運搬船なので、実際の運航では従来以上に慎重に行う事が必要になってくると思われる。 さらに橋などで高さ制限がある港も多く、セールの高さを調整する機能は不可欠となる。(横浜ベイブリッジの例では海面からのクリアランスは55mとなっている)。
Oceanbirdを進めている Alfa Lavalの製品は輸送の機械推進システムを支える重要な装置として世界中で使われている。そのような基幹メーカーが風力推進システムに本格的に参画したという点でも注目すべき計画だ。 そもそも欧州にはセーリングボートを文化として維持、技術を進化させてきた歴史がある。残念ながら日本には商船を作る産業と技術は素晴らしいものがあるが、大型セーリングボートの技術は欧州には大きく遅れている、というか、無いに等しいだろう。 日本の造船業が復活する為には取組みを加速しなくてはならない。欧州に技術で先行されて、中国・韓国に生産で先行されるという悪循環を断ち切るチャンスだと感じる。
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