世界のエネルギー構成からみる、COP26妥協の背景
英国グラスゴーで開催されていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は「グラスゴー気候合意」を採択し閉幕した。 2100年の世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える努力が織り込まれた。最大の争点となったのは石炭火力発電の取り扱いだった。当初の合意文書案では「段階的廃止」の表現だったが、インド、中国が反対し、「段階的に削減」という表現で合意された。日本も自国の資源に乏しい状況を踏まえて、様々なエネルギー源のバランスを取りながら活用する必要があるとして、石炭の廃止には賛同しなかった。この判断は正しいものだと評価したい。
化石燃料の中で温暖化ガス排出量の比較的多い石炭はやり玉になっており、削減・廃止の流れを加速しようという動きは世界各国で顕著になっている。2050年のカーボンオフセットという目標を掲げて、最優先事項として取組むべきとの趣旨は良いとしても、現実には大変難しい道のりである。 バランスを取りながら堅実に進めなければ、カーボンオフセット目標どころか、その前に世界経済の破綻、貧困問題の拡大、民族問題の拡大、などが加速し、人類社会の混乱と破綻、地球温暖化対策どころではない状況になるかもしれない。
石炭を悪だと決めつける風潮があるが、世界の一次エネルギーの27%は石炭という安定した安価なエネルギーによって維持されている。各国の経済や産業、そして社会の人々はこの恩恵を受けている。不安定な自然エネルギーに頼るという事は、過渡期にはコストとリスクの両方を覚悟する必要がある。しかし、現実の社会では、エネルギーコストが大幅に高騰する事も、停電が頻発する事も許してはくれないだろう。
既に、脱炭素の影響で、石油や天然ガス価格が高騰するという皮肉な事になっている。欧州の風が弱かったことで、火力発電に頼らざるを得なかったことも、この高騰の一因となっている様だ。米国のエネルギー省は2050年には原油の需要が2020年比で40%増えるという試算まで発表している。
エネルギーは人類の誕生からの必需品であり、バランスを取りながら進めないと、予想外の大問題が発生するリスクを認識すべきである。 さて、各国のエネルギー事情が交差したCOP26だが、具体的なエネルギー構成を見れば、その事情もよくわかる。下の図は各国の一次エネルギーの構成をまとめたものだ(BPデータ、電気事業連合会まとめ)。世界計で、化石エネルギーの比率が実に84%に上っている事をまずは認識しなくてはならない。
更にCOP26で懸案となった石炭焚火力発電の観点から、各国の電源構成を見てみよう。(出典:IEAデータ・JAEROまとめ)
石炭火力を見ると、中国とインドでは全電力に占める構成比率が約70%、韓国が44.8%、ドイツ37%、日本32%となっている。
自然エネルギーを見ると、水力資源の多いカナダ・ブラジルが電力構成の70~90%となっている。英国・ドイツは風力などその他自然エネルギーで30%を達成している。自然エネルギーは水力を含めて20%と少ないものの、他の電源は分散バランスしてリスクを分散させている事が理解できる。但し、化石燃料に頼っている構造は顕著である。
目を引くのはフランスの原子力71%である。日本は原子力の稼働が遅れている為比率が4.9%と下がっている。日本政府が発表した電力計画では今後全原子力発電所を再稼働させて、CO2削減につなげたいという内容になっているが、世論がこの推進を簡単に容認するとは思えない。
COP26では政治的配慮が絡んだ結論となったが、石炭に対する重要性がインド・中国では大変大きく、そもそも簡単に「廃止」を目標にする訳にはいかないのは理解できる。
日本は自国でのエネルギー資源がほとんどない、自然エネルギーといっても、山の多い地形、浅瀬の少ない沿岸地域などのハンディキャップを抱えている。カーボンオフセットまでの過渡期にはバランスを取りながらリスク分散をしていく事が不可欠であり。エネルギーの確保という観点から、リスク分散すべきだ。欧州主導の潮流に迎合するようなスタンドプレーは取るべきではないと思う。
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