航空機の地球温暖化対策~2(電動化の道)

ソーラーインパルス2 その後 

スイスのソーラーインパルスチームは2016年にソーラーインパルス2によって、太陽光による電力とバッテリーチャージだけで世界一周飛行を行った。 

クリーンエネルギー航空機の可能性を証明する為に開発されたソーラーインパルス2だが、その後は2019年にスペインと米国に拠点を置く企業に売却された。スイス公共放送によれば、売却先企業は軍事用のドローン開発の為に購入したと報道されている。残念な事に、軍事転用のようだ。長時間太陽光だけで飛行できる自立型のドローン開発に有意義な技術なのだろう。地球と人類の調和と持続共存を目指して取り組んできた、ソーラーインパルスの技術が、軍事転用というのは皮肉な話だ。


「H55」の小型電動飛行機

 一方、ソーラーインパルスの創始者の一人で、パイロットでもあった、アンドレ・ボルシュベルグは「H55」という企業を立ち上げた。電動化航空機の型式証明(TC)取得を目指している。日本のTVでも報道されていたが、パイロット用の練習機として電動小型飛行機「Bristell Energic」を発表した。

同社の発表資料によれば、乗員は2名、飛行時間:90分、最高速度:200km/h、電力コストは1時間のフライトでたったの7ドルとなっている(標準的な小型飛行機の燃費は約40ドル)。機体本体は新規開発ではなく、既存のチェコBRM Aero社の Bristellを使用している。まずは飛行時間の短い練習機としての実用化を目指している。 (写真 Bristell Energic, 出典 H55 HP)

 下の写真は2016年に世界一周飛行を行った、ソーラーインパルス2(出典:ソーラーインパルスHP)

電動飛行機の開発にはH55以外にも様々な企業が取り組んでいる。 米国ではAero Electric Aircraft Corporationが、小型機で練習機の市場に照準を合わせている。こちらは4人乗り飛行時間3時間のモデルの実用化を進めている。 

スロヴェニアのピピストレルは二人乗りの訓練用機体の型式証明を欧州航空安全庁より2020年6月に世界で初めて取得している。(写真:同社HP)

本格的長距離飛行を狙うエアバスの取組

エアバスは2014年の航空ショーで小型航空機「E-fan」を発表したが、これはプロトタイプが作られただけで、その後の開発はキャンセルされた。しかし、この成功を踏まえて同社はその後、更に「E-fan X」プロジェクトをシーメンス・ロールスロイスと共同で進めてきた。100人乗りRJ100の機体をベースに、ターボファンエンジンの一部をモーター駆動としたハイブリッド型のシステムを使うシステムである。E-fan Xは2020年の初飛行を目指していたが、コロナウイルスの影響を受けて計画は大きく見直しになってしまった。フライトテストはキャンセルされ、電動推進システムの地上試験を完了させる事に計画が変更された。

AirBusのE-fanがH55と大きく異なるのは、電動ターボファン推進装置と電源装置そのものを新規開発し、長距離飛行にハイブリッド型電動化を持ち込もうとしている点だ。小型のE-fanで実証された電動ターボファンを大型化し、E-fanXとして100人乗りの機体で使おうという計画だ。

機体にロールスロイスのガスタービン発電機を設置して電力を一度バッテリー装置に蓄電したうえで、電動ターボファンへ供給するシステムとなっている。システム構成は自動車でいえば、日産の”e-Power”と同じだ。発電用エンジンをレシプロからガスタービンに変えた構成だ。ガスタービンを一定の最適効率負荷で運転する、電動ターボファンは低出力から高出力まで均一な高い効率を実現できる。この組み合わせによって高いエネルギー効率を達成し、エミッション中の温室効果ガス量を減らすことが出来るという仕組みだ。

このプロジェクトは相当な肝いりで進められていたのだが、コロナウイルスによる航空機需要の低迷を受けて資金繰りも続かず、キャンセルとなってしまった。但し、基本的な電動ターボファン装置のテストは完了させて、次のタイミングを待つという事だと思う。

(写真はE-fan Xのコンセプト図、4基のエンジンの内、1基が電動となる。Power Generatorはガスタービン駆動。 出典:AirBus HP)

下はE-fanプロトタイプ、独自の電動ターボファンが見える(出典:AirBusHP)

こう見てくると、他にも多数のメーカーが取り組んでいる事が分かる。短距離で使用される練習機や、近距離移動のフライトに全電動化あるいはハイブリッドの機体が採用されるのも、そう遠くはないだろう。長距離飛行もエアバスのハイブリッド型であれば、そう遠くない時期に実現するように思える。

EneCockpit

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