航空機の地球温暖化対策~1(太陽光で世界一周)
ソーラーインパルス2・太陽光のみで世界一周飛行
地球温暖化の問題は空でも同じである。人類が出している二酸化炭素などの温暖化ガスの2%以上が航空機分野から出されているとICAO(国連民間航空機関)が報告している。 既に、ボーイング787などで大幅な燃費改善や、二次エネルギーとしてリチウムイオン電池が採用されるなどの取組が行われてきた。更に最近は航空機の電動化の取組が始まっている。
今回はこの電動化の先駆けとして2016年スイスのソーラーインパルスチームが行った電動航空機による世界一周に触れてみたい。
2016年7月25日、「ソーラー・インパルス2」は、化石燃料を使わず、太陽光発電による電力を使ったモーター駆動航空機により世界一周飛行を成し遂げた。今後の空の再生可能エネルギー活用の可能性を示す事になった。この冒険の期間は17か月、17都市に立ち寄りながらの、約43000㎞に及ぶ世界一周だった。写真はアブダビ上空を飛行する ソーラー・インパルス2(出典:同プロジェクトHP)
同機は乗員1名、機体に張った太陽電池からの電力によってモーターを駆動させて飛行する。同チームにはスイスの電気メーカーABBや、オメガ、スイス再保険、Googleなどが支援企業として名を連ねている。ソーラー・インパルス2は翼幅長が72mもあり、747ジャンボを上回るが、重量はカーボンを多用し、わずか2300㎏しかない。但し、速度も自動車と同じ約100㎞/hしか出せない。
このプロジェクトは単なる冒険アドベンチャー飛行に留まらず、機体のカーボン素材による軽量化・ソーラーパネルと、バッテリーの高効率化・最適制御などの技術的な革新を進めた。これらの技術の進展があってこそ、太陽光エネルギーだけで航空機の世界一周が出来たのである。この機体自体は大変華奢で、実用性があるとは言えないが、航空機のエネルギー改革のキックオフという意味は大きい。単に航空分野に留まらず、バッテリーと太陽電池を進化させる事で、不安定な太陽光電力を高性能二次バッテリーにより安定化させて夜間も使う事が出来るという、幅広い自然エネルギーソルーションの可能性も示した。
このチャレンジでは、重量がキーとなり乗員は1名に絞られた。その結果、一人のパイロットが長い期間では5日間、短い仮眠だけで操縦するという拷問的な取り組みをせざるを得なかった。セーリングボートの単独世界一周レースで操船者が短時間の睡眠を小刻みに取りながら走り続けるというものに相通じる感じがするが、数日間とはいえ狭いコクピットに縛り付けられる状況は、自由に動き回れるセーリングよりも更に過酷かもしれない。
この機体は大変軽量華奢で、天候には細心の注意が必要だった。その為、中国南京からハワイを目指す途中では、天候不順により名古屋に緊急着陸するという事態も発生した。
写真は名古屋に緊急着陸した際の風景、狭いコクピットが見える(出典:ソーラーインパルスHP)
航空機の電動化という面では、他にも様々な企業が取り組んでいるが、太陽光で夜間も飛行するという取組は、このソーラーインパルス2のみである。ソーラーインパルス2のその後と電動化については別のコラムで紹介したい。
航空機による冒険の歴史を振り返る
航空機による冒険チャレンジは過去にも色々と行われてきた。有名なところはリンドバークだろう。これらの冒険によって、航空機は少しずつ進化してきた。
リンドバーグによる大西洋単独横断飛行、「翼よ、あれがパリの灯だ」
1927年5月20日リンドバーグはスピリットオブセントルイス号でニューヨークから離陸。翌日パリのル・ブルジェ空港に着陸、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功した。
飛行距離は5,810kmで飛行時間は33時間半だった。パリまでの全行程を一人で操縦し続けるという過酷な飛行だった。
但し、単独でない大西洋無着陸飛行は、1919年に達成されている。但し、これは、二人のパイロットでニューファンドランド島からアイルランドへ1,890kmを16時間で飛行したもので、距離もリンドバークの三分の一だった。
また、「翼よ、あれがパリの灯だ!」というフレーズが有名だが、この台詞は1953年に出版された自伝「Spirit of St. Louis」の邦題で、後世の脚色。リンドバーグはその時自分がパリに着いたことも分らなかったと言われている。
飛行船Zepperine号による世界一周(別コラム「飛行船は進化する、空の地球温暖化対策」に記載、参照頂きたい)
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