日本がリードするCO2分離回収技術CCUS
カーボンオフセットを実現するには、CO2を回収分離し、それを活用したり貯蔵するCCUSが重要な役割を担うことになる。
ある野党は選挙公約で2050には自然エネルギー電力100%を目指すと表明しているが、スタンドプレーもはなはなしい。現在の技術では不安定な自然エネルギーだけで電力を100%充足する事は不可能だ。停電が頻発しても構わないというなら話は別だが、、
不安定な自然エネルギーを補完する重要な役割が化石燃料系統の発電設備にあるのだが、CO2の排出は避けられない。このCO2を回収貯留し、更にはそのCO2を活用する技術がCCUSである。カーボンオフセットを実現する為にはCCUSの技術が不可欠になる。
CCUSは 「Carbon Capture Utilization Storage」の略称である。このカテゴリーに、排ガス中のCO2を分離して地下地層に貯留する技術があり、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれている。また分離したCO2をメタノールや肥料などの原料として活用すれば文字通りCCUSとなる。実は、このCCUSに必要なCO2分離技術分野では日本が世界をリードしているのだ。
既存の火力発電所などにCO2分離装置を設置すると、排ガス中のCO2の90%近くを分離する事が出来る。分離されたCO2を地中1000~3000mの粘土層など遮蔽層の下に貯留したり、メタノールや尿素など合成品の原料として活用するという仕組みだ。このCO2を石油層に注入して石油の生産性を上げるという活用方法も実用化されている(EOR: Enhanced Oil Recovery:原油増進回収法)、但しEORは石油の増産という事になり、化石燃料の削減とは矛盾するサイクルになってしまうので、こちらが今後普及するかは疑問だ。
CO2の分離回収プロセスに関してみれば、日本の三菱重工が14基のプラント実績があり、世界シエアの70%を占めている。また、関連特許の出願も世界トップとなっている。
CCUSを日本でもどんどん導入すれば良いのではないかと思わるだろうが、CCSには分離したCO2の処理が前提となる。メタノールなど製造という使い道があれば良いが、単純にCCSとして貯留する場合は適した地層が必要になる。日本では設置できる地域が限られており、発電所や工場などのCO2の発生設備と貯留地層の地域的なマッチングが必要だ。
またCCS装置は、今のところそれ自体が利益を生み出すものではない為、運用コストが設置の課題になってくる。しかし地球温暖化対策の一環として、今後、CO2を回収する事自体に付加価値がついてくる事になるであろう。そうなればCCUSの位置づけはより重要なものとなってくるだろう。
日本での最大CCS実証設備は苫小牧で2012年より実施されている。電力会社・石油関係企業・商社・エンジニアリング会社など34社が母体となり、政府支援研究(NEDO)として実証実験が行われてきた。2016年より苫小牧の製油所から出るCO2を回収し、苫小牧沖の海底に圧注を続け、CO2の漏れなどがモニタリングされてきた。2019年に計画の圧注30万トンを達成し注入は停止し、その後はCO2漏洩のモニタリングが続けられた。この実証を経て、今後は日本でも商用プラントへの展開が始まるものと期待されている。
図は苫小牧のCCS実証設備(出典:JCCS HP)
図はCCSイメージ(出典:エネ庁HP)
一方、世界最大のCCSは三菱重工が米国テキサスのPetra Nova 社( JX 石油開発(株)が出資した合弁会社)納入し2016年より運転を開始しているものだ。石炭焚火力発電プラントからの排ガス中のCO2を分離回収して石油層に注入するEOR(原油増進回収)プラントである。CO2 回収能力は4776 トン/日となっている。(下写真出典:三菱重工HP)
同社の納入実績を見ると、14プラント中12が海外向けである。回収したCO2の活用方法があり、商用ベースで計画が実現されてきたものだろう。日本での普及には、回収したCO2の活用、あるいはCO2回収自体の価値化がポイントになってくるものと思われる。是非、日本企業には世界をリードするCCUSの技術有利性を維持して欲しい。
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2021.10.21 22:17