エネルギー基本計画・2030の電力構成は困難?

経済産業省は2021年7月に新しいエネルギー基本計画原案を公表した。 2030年度の電力構成案が柱となっており、再生可能エネルギーを大きく拡大しているのがポイントだ。 4月には、温室効果ガス排出量を2013年度比で46%減らす新目標が発表されているが、これから逆算したものと見える。対外的に迅速なカーボンオフセット方針を示さざるを得ない事情から無理を承知で設定された目標だろう。

積み上げ式で計画されたものではないので、2030年度の電源構成を電源別に実現性を検証すると、大変高いハードルである事がわかってくる。 下のグラフが2030年度の電源構成目標の内訳だ。再生可能エネルギーと原子力が大きく拡大し、化石燃料であるLNG・石炭・石油を大きく減少させる計画だ。

スポーツでいえば、100mを13秒でしか走れない人に、10秒台を狙うぞと鼓舞しているようなものか? 実現する可能性が0ではないが、ハードルは大変高い。しかし、地球温暖化対策という世界的な大号令の下で、単なる看板とする訳にはいかないだろう。日本の自然環境面での特殊事情も踏まえて、何か課題なのかを考えてみたい。

下図:経済産業省発表資料より作成

 ◆再生可能エネルギー

まず、何といっても再生可能エネルギーの拡大が最大のポイントだ。 再生可能エネルギーと言っても太陽光・風力など様々なので、種類別にどのくらいの増加を計画しているのかを公表資料からまとめると次の通りとなる。 (発電量:数字単位=億kWh(カッコ)は増加率%) 

  • 太陽光   680 →  1400 +720(205%) 
  • 風力      70  → 560 +490(800%) 
  • 水力    800    → 940 +140(118%) 
  • バイオマス 270  → 470 +200(170%) 
  • 地熱      30  →   90 + 60 (300%) 

〇 太陽光

太陽光の拡大量が+720億kWhと最大だが、拡大率でみれば風力が800%と圧倒的に大きい。 日本はFIT(Feed in Tariff)制度により導入が進み、既に世界三位の太陽光設置国となっている。 これを更に伸ばそうという計画だ。デベロッパー企業や投資ファンドがメガソーラーと言われる大規模太陽光発電所を建設してきたが、それに伴い森林伐採・景観破壊などの自然破壊の問題も浮上している。今年、伊豆山温泉で発生した土石流事故などもあり、地域住民や自治体のメガソーラーに対する姿勢は逆風になっている。

それに比べると、工場やビルの屋上・一般住宅などへの太陽光パネル 設置の方が、現実的で広告効果もある。普及の加速力がポイントになるが、最新技術「ベロブスカイト型電池」の様に、曲面にも使え、コストも安い製品が市場投入されつつある。設置の容易さと、初期コストのハードルが下がっていけば、建屋や公共設備などへの普及が加速していく可能性がある。 

一方、太陽光のネックは、太陽と天気に左右される不安定電源だという事だ。単に、太陽光発電設備を増やしても片手落ちだ。不安定な電力の振れを調整する為の、送電系統の強化や、火力発電所の維持、余剰電力の蓄電などが不可欠になってくる。 

〇 風車 

風力発電の拡大幅が800%と最大だ。設備量でみると、2020年の設備実績4500MWを15000MWまで三倍以上に拡大する計画で、洋上風車を想定している。風力発電は、あたりまえだが風が吹く地域に設置しなければ意味がない。候補地域は、人口の少ない北海道・東北・九州などの沿岸部となり、電力は地産地消とはならない為、送電系統の強化は不可欠となる。更に、洋上風車は設備が巨大であり、設置水域の確保、港湾漁業関係者の理解が重要なポイントになる。 また、太陽光とは異なり夜も発電はするが、発電量は風任せという宿命がある。太陽光同様に、風力発電の振れを吸収調整する為のバックアップ対応は不可欠だ。

◆原子力

原子力は2030に22%という予想外に多い数値に設定されている。温暖化ガス46%減の数字合わせるには、原子力を増やさざるを得ないという事だろう。この22%という数値は原子力規制委員会に再稼働申請されている、全27基の再稼働を前提条件としている。 2011年の福島の事故以降、再稼働された原子力発電所は10年間で10基、すべてPWR型(加圧水型軽水炉)のみである。安全審査と地元の理解、両面からあと9年で残りの17基を再稼働させるというハードルは大変厳しいだろう。

(下図マップ:日本電気事業連合会資料 原子力発電所の現状)

◆火力発電(LNG・石炭・石油)

化石燃料系発電 LNG・石炭・石油を燃料とする発電設備、俗に言う火力発電だ。現在はこれら化石系発電設備のおかげで安定した電力供給を受けられている。日々電力需要の変動に合わせて負荷を調整する重要な役割も持っている。 これらの発電量は2019年度76%(7800億kWh)を占めている。これを2030年には3900億kWhと50%に半減にするという計画だ。この減少分は、再生可能エネルギーと原子力でカバーするというプランだが、そう単純な話ではない。

 まず、火力発電には不安定な再生可能エネルギー由来の電力に対するショックアブソーバー的な調整機能がある。原子力の稼働が増加したとしても、原子力は短時間で負荷調整を行う事が出来ない為、調整機能としては使えない。このような重要な役割を担っている火力発電の設備削減は慎重に行う必要がある。調整能力を超えて再生可能エネルギーによる発電変動が起これば大規模停電のリスクが高まる。石炭を代表に逆風が吹いている化石燃料だが、単純に代替できるものではないのだ。

さらに2030には量は少ないが、水素とアンモニア による発電も全体の1%ほど織り込まれている。まずインフラとコストの合理性が確保できるかが鍵となるが、とりあえず旗印として織り込んだものと思う。

このように見てくると2030年度の電力構成はの実現性については、大きなクエスチョンマークがついてしまうが、全体のバランスを見ながら着実に進めていく道しかないだろう。


EneCockpit

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