水素はクリーンとは限らない、製造方法は様々
地球温暖化解決のクリーンエネルギーとして水素が脚光をあびている。しかし水素は単独では存在していない、何らかのエネルギーを使い、水や石化物質から分離して作り出す必要がある。製造プロセスによってはクリーンエネルギーとは言えないものがある。水素の特徴、普及の可能性などについて考えてみたい。
水素の国内消費量は、現状約130万トンと言われている。政府のグリーン成長戦略では、発電・輸送・産業分野での活用を進め、2030年には300万トン、2050年には2000万トンへ急速に拡大させる計画だ。急激な拡大だが、実現性はあるのだろうか。
水素の特徴
まず、水素には次のような特徴がある。
無色無臭
最も軽い気体
液化すると-253℃の超低温となる
燃えても二酸化炭素や酸化物は出ない
水の形で地球上にぼぼ無尽蔵にあるが、単独で利用な形では存在していない
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私たちが活用できる水素は主に、水(H2O)、と化石燃料(天然ガス・石油・石炭)などの中に存在している。利用可能な水素は自然界に単独では存在していない。
では水素を燃料として使えば、排出されるのは水だけで完全にクリーンという事か? そうは単純ではない。
単独で利用可能な水素が自然界にない為、水や化石燃料を分解して作る事になる。この製造過程では製造設備とエネルギーが必要であり、直接・間接的に、二酸化炭素が発生する。
また水素は常圧での液化温度が-253℃と低いため、保管や輸送などがむずかしいという問題もある。普及への課題は多く、技術とコスト、両面の課題を解決していく必要がある。
水素普及に向けての具体案は?
発電・交通・産業などエネルギーを使用する分野によって、普及への課題は異なり、既に様々な検討が進んでいる。具体的な活用例を紹介したい。
・水素ステーションで利用
水素ステーションネットワークを作り、燃料電池車の燃料などに水素をそのまま供給する方法。水素ステーションの実証実験はかなり以前より進められてきた。燃料電池車や水素エンジン車の普及には水素ステーションが不可欠となるのだが、既存のガソリンスタンドとは別のインフラ網を整備・維持する事になる為、普及へのハードルは高いと考えられる。ENEOSが水素ステーションの商用営業をトライアルデモとして開始はじめている。
・アンモニアとして活用
水素を安定したアンモニアに変換したうえで、火力発電所などの燃料に利用するという方法。水素を窒素と合成して、アンモニアにすれば、輸送も保管も簡単になる。アンモニアは常圧では-33℃で液化する。また、20℃では 8 気圧の圧力で液化する。水素とくらべて、輸送や保管は簡単になり、かつ燃焼してもCO2は発生しない。自然エネルギーによって作られた水素を、火力発電所で利用すればCO2が大幅に削減できる。
・メタンなど合成燃料として活用
メタネーションという技術により水素をCO2と合成してメタンガスに変換し、天然ガスの代替として使用する方法。同様に、水素をCO2と合成してe-fuel (Electrofuels)と呼ばれる合成燃料にして自動車や航空機の燃料とする事も検討されている。いずれも、製造段階でCO2を吸収して、それを燃焼段階で排出するので、CO2はプラスマイナスゼロ、すなわちカーボンオフセットになるという考え方だ。
・天然ガスパイプラインへの混入
欧州では、既存の天然ガスパイプラインに水素を混入して輸送する検討が20年前から行なわれている。5%程度の水素であれば、既存のパイプラインやコンプレッサー設備はそのまま使える為、過渡的には水素を混入させる計画だ。最終的には2040に独自の水素パイプライン網の整備を目指している。日本においても、既存の都市ガスパイプラインに水素を混入した場合の、設備への影響確認試験が進められている。日本の場合、そもそも広域のガスパイプライン網自体が少ないという点で、水素の利用にはハードルがある。
経済産業省が水素の活用分野をイメージ化した資料を、下の通り公表している(2020年11月資料)。
水素の種類 すべてがクリーンではない
このように様々な検討が進んでいるが。原料や製造過程で使用するエネルギーによって水素は分類されている(IEA:国際エネルギー機関)
水素には製造過程で比較的多いCO2を発生させるものがあり、水素はクリーンというイメージを闇雲に持たずに、冷静に考えていく必要がある。
・グリーン水素
最近報道でよく出てくる。太陽光や風車などの自然エネルギーによる電気を使用して、水を電気分解して水素を製造すれば、二酸化炭素の発生は低く抑えられる。
このように再生可能電力を使い製造した水素を「グリーン水素」と呼ぶ。
但し、太陽光発電や風力発電の設備を製造建設する過程や、輸送などで間接的に二酸化炭素は発生するので、カーボンゼロにはならない。よく、カーボンゼロとPRしている記事を見るが、正しい表現ではない。
・グレー水素
製造過程で、化石燃料由来の電力を使用した水素、あるいは化石物質を原料として製造された水素はグレー水素と呼ばれる。更に、使用された化石燃料の種類によって、更に細かく区分される場合がある。
グレー水素 :天然ガス・石油由来
ブラック水素:石炭由来
ブラウン水素:リグナイト(褐炭:水分不純物の多い低品位炭)
天然ガスや石油などの化石燃料を水蒸気と反応させて水素を取り出す水蒸気改質という製造方法がある。世界で生産されている水素の95%はこの化石燃料由来のものと言われている。
また、石炭を高温でガス化し、さらに高温で水を加えることで水素を製造する事が出来る。
このように化石原料から水素を製造する場合には二酸化炭素も発生する為、グレー水素と呼ばれる。
・ブルー水素
水素の製造過程で排出された二酸化炭素を、分離回収し、工業用利用や、地中に隔離保管などの対策を行った場合、製造された水素は「ブルー水素」と呼ばれる。
例えば、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がオーストラリアのビクトリア州で進めている「褐炭水素プロジェクト」がある。利用価値の低い褐炭から水素を製造して、二酸化炭素を地中隔離するというもの。褐炭由来の水素は「グレー水素(ブラウン)」の区分だが、二酸化炭素を地中隔離する事によって、この水素は「ブルー水素」となる。
・ターコイズ水素
天然ガスを直接熱分解し、水素と固体炭素を取り出すプロセスから出た水素は、グリーンとブルーの中間色という意味でターコイズ水素(トルコ石)と呼ばれる。固体炭素はタイヤの原料等の工業原料として使われる。この技術は米国企業がもっており、三菱重工が出資している。
これらを纏めると下の表のようになる。
このように水素と言っても、製造プロセスによって様々だ。理想はグリーン水素だが、現実的には、コストや、効率の良い利用方法など様々な課題を解決していく必要がある。
例えば、再生可能エネルギーからグリーン水素を作り、それを輸送して発電所の燃料に使うというプロセスの場合、二度もエネルギー変換を行うことになり、極めて非効率となる。
但し、不安定な再生可能性エネルギーを一度水素に変換して、安定したエネルギー資源に変換したうえで、発電所や自動車の燃料にすれば、再生可能性エネルギーの活用範囲は広がる。
水素の普及については悲観的な見方をする人も多く様々なハードルがあるが、長期的なカーボンオフセットの為に様々な形で普及は進んでいくだろう。問題は、水素のコストを競争力のあるレベルまで下げられるのかという事だろう。
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