EVに急ハンドルを切る世界の自動車政策 将来の自動車は?


地球温暖化問題解決のために、各国の自動車行政は大きくハンドルをゼロエミッションに切り始めた。EV・ハイブリッド・水素エンジン・燃料電池など様々な名前が飛び交っている。世界の動きと、自動車の動力システムの可能性を整理する。長年自動車を支えてきたレシプロエンジン(ピストン型往復運動エンジン)は消えていくのだろうか?

 各国の自動車政策 まず、各国の動きを整理すると、、、

◆日本

日本政府は2021年1月に、2035年に国内の新車販売の電動化を100%とするとの方針を発表した。電動化はEVだけではなく、HV(ハイブリッド)・PHV(プラグインハイブリッド)なども含めて選択肢を広くしたいとの見解も出されている。ガソリン・ディーゼルなどの内燃機関エンジンだけの新車は2035年からは販売は出来なくなる。 各自動車メーカーは、この流れを受けて工場生産設備や人員の検討に入った。 

 ◆米国 

バイデン大統領は2021年8月に、2030年までに米国の新車販売に占める電気自動車や燃料電池車など走行中に排気ガスを出さない「ゼロエミッション車」の比率を50%に引き上げると表明した。 この背景にあるのがカリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle)規制だ。 このZEVにはHV(ハイブリッド)車が含まれていない。但し、PHV(プラグインハイブリッド)はZEVに含まれる。米国はEVのネックである走行距離の問題を考慮して、モーター駆動が主であるPHVをZEVに含めたと思われる。 また、燃料規制については2026年までに22㎞/lの平均燃料を義務化とした(トランプ政権では17km/lと制定されていた)。この数値は欧州から比べると3割近く緩いレベル。 EVは構造が簡単で労働力が少なくて済む為、全面的なEV化は雇用機会の消失を招くといわれている。米国の発表には、雇用を確保する段階的な措置を講じるなど、自動車メーカーや労働組合への配慮が見える。 

 ◆欧州

欧州委員会は2021年7月に、2035年に内燃機関エンジン搭載車の新車販売を実質禁止にすると発表した。HVもPHVも内燃機エンジンが搭載車されている為、販売禁止の対象となる。 英国は更に厳しく、2030年には内燃機関エンジン車は新規販売禁止、PHVも2035年までの期限付きとなっている。 大変厳しい政策に転じているが、BMW他自動車メーカーからは現実的ではないとの意見が強く、足並みは揃っていない。

 ◆中国 

中国は世界最大の自動車市場で、かつ2019年には世界最大のEV市場となった。同国は2035年をめどに全ての新車販売を環境対応車とする計画。50%は新エネ車、50%は低燃料消費車とする方針を表明した。 国策としてZEVの中国版ともいえるNEV(新エネルギー車)規制政策を取り、自動車メーカーに一定割合の新エネ車の販売を義務付けている。注目すべきは、CO2削減の過渡的扱いでハイブリッド車も基準を満たせば推進分野の低燃費車として扱われる事。 日本メーカーにとっては得意なHV技術で有利に立てるチャンスがあると思われる。一方、中国メーカーにとってEV化は大きなビジネスチャンス。歴史の浅い中国メーカーはサプライチェーンのしがらみも少なく、よりEVにシフトしやすい環境にあると言える。

EV/エコカーの温暖化ガス排出量は?

 では、将来の自動車は何が主流になるのか? 一番重要な二酸化炭素排出量別に、車の動力システムを比較したものが次の表一覧となる。 

これによるとEVはガソリン車の37%程度のCO2排出量で済むという事になる。(EV/ガソリン=55/147=37%) この差が生まれる一番の理由は、実使用条件下でのエネルギー効率がレシプロエンジンとモーターで異なる事が理由だ。モーターの特性として回転数が低いところで高いトルクが出る、レシプロエンジンは回転数が上がらないとトルクも出ない。利用頻度の多い条件下で効率が優れているのがモーターという訳だ。

上記資料は2011年に作成されたもので少々古い為、最新のEVとガソリン両モデルのある日本(マツダ)と欧州車(プジョー)の公表燃費で計算比較してみた。結果はマツダ・プジョーいずれもEVがガソリン車の40%程度で済むという事で上記表と齟齬はなかった。 再生可能エネルギー電力の比率の高い欧州の電力では更に削減効果は高くなる。

 計算前提:カタログ燃費をもとに、ガソリンのCO2排出量(エネ庁公表値)、電力kWhのCO2排出量0.43㎏(2020東京電力公表値)。エネルギーの製造から車の動力に変換されるまでの「well to Wheel」で試算。

A)マツダMX30 
「ガソリンモデルのCO2排出量」0.136㎏-CO2/㎞ (前提:JC08燃費 16.9km/ℓ・ガソリンのCO2排出量2.3kg-CO2/ℓ)

「EVモデルのCO2排出量」 0.056㎏-CO2/㎞ (前提:JC08燃費 131Wh/km・東電CO2排出量0.43㎏-CO2/kWh) 
➡ CO2排出量比 EV/ガソリン 0.056/0.136=41% 

B)プジョー208 

「ガソリンモデルのCO2排出量」0.126㎏-CO2/㎞(前提:JC08燃費 18.2km/ℓ・ガソリンのCO2排出量2.3kg-CO2/ℓ)
「 EVモデルのCO2排出量」0.056㎏-CO2/㎞ (前提:JC08燃費 131Wh/km・東電CO2排出量0.43㎏-CO2/kWh) 
➡ CO2排出量比 EV/ガソリン 0.056/0.126=44% 


EV普及の弱点は充電時間

EVのネック弱点は、①価格が高い、②走行距離が短い、③充電に時間がかかる、の3点と言われている。普及に向けては、どれも解決しなければならない問題。 価格と走行距離は電池の改善により達成できるだろうと言われている。既に、航続距離に関して、初期のリーフがカタログ値200㎞程度だったのに比べ 2021年型最新のテスラモデルSでは650㎞まで走行距離が伸びている(メーカー発表の推定値)。 

残りはバッテリーチャージの時間、これは簡単ではなさそうだ。インフラとして充電ステーションを全国に設置して利用する場合を考えてみると、ステーションを建設するのは難しくないだろうが、充電に長時間かかっていては多数の人が使えない。今後の技術イノベーションに期待する。


水素エンジンや燃料電池の可能性は?

次に水素を燃料としたエンジンや燃料電池を考えてみたい。 

水素を燃料とする場合、CO2排出量は水素の製造過程条件により大きく振れる。 水素は単独で利用可能な形で地球には存在しておらず、エネルギーを使って作り出す必要がある為だ。自然エネルギー以外を使って作られた水素の場合、上のグラフではCO2排出量は79gとなっている。HVとEVの中間というポジションだ。 水素自動車には、圧縮保管輸送と水素ステーションでの低温貯蔵という大きなエネルギーを使うプロセスが必要だ。 水素エンジン車や燃料電池車などが普及するかは、供給インフラ整備と価格競争力とのセットで決まるものと思われる。 

テスラのイーオンマスクは2015年に燃料電池(Fuel Cell)をもじってFool Cellと揶揄し、トヨタは「長期に見ればFCはEVの拡張技術として取り組む」とコメントするという事があった。水素の難しさはこのやりとりに表れている。 

また、自動車での水素利用は、「e-fuel」というH2とCO2の合成液体燃料の可能性もある。 再生可能エネルギーから作ったグリーン水素を使いCO2と合成させた場合、CO2の吸収と排出をオフセット出来る事になる。この燃料は液体であり、既存のガソリンスタンドなどのインフラを流用できる可能性があると言われている。日欧の自動車メーカーは研究に入っている。 

 このようにみてくると、水素のハードルはかなり高い様に思える。EVの充電インフラの整備と技術改善の方が現実的で、CO2排出量削減にも即効性があるだろう。しかし、自動車会社は各社とも一本足打法ではリスクが高いので、守備範囲を広げて八方美人的な準備をしている状況だ。 

また、車のCO2排出量問題は、車自体の性能効率だけではなく、工場生産段階で使われる電力や熱源のエネルギーでいかにCO2排出量を減らすかという問題にも拡大する。この急激な動きは日本の産業構造にも大きな影響を与える可能性がある。 

 

あと10数年で内燃機関エンジンの車が販売できなくなるというのは、以前レシプロエンジンにも従事してきた事のある筆者には寂しい事だが、本当にそうなるのだろうか?  PHVや水素・e-fuelという分野や、電気自体が普及していない地域でのニーズを受けて、おそらく内燃機関エンジンはしぶとく生き残っていく様な気がする。今後の動向を注目してきたい。


EneCockpit

地球環境エネルギー問題を中心とした情報メディアです。 エネルギー・電力・環境インフラの専門家チームにより、 ニュートラルな立場からこの問題を考えるヒントを発信しています。 SDGs・地球温暖化の問題は、人類社会の存続につながる重要な問題です。 多くの方に、この問題を身近に感じて頂ければ幸いです。

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