異常気象は元には戻らない・IPCC報告・石油メジャーとの歴史
IPCC( Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書が2021年8月9日に発表された。「現在の異常気象は元には戻らない」というショッキングな内容となっている。 下の表はIPCC報告より抜粋。グラフは西暦元年からの世界の平均気温の変化と1850~2000年の観測値。温暖化が急激であることを示している。
IPCCの報告のサマリーは次の通りだ。
- 人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。
- 気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである。
- 人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び気候の極端現象に既に影響を及ぼしている。
- 世界平均気温は、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける。向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は 1.5℃及び 2℃を超える。
- 過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、氷床及び世界海面水位における変化は、百年から千年の時間スケールで不可逆的である。
下の図は2021年エネルギー白書からの抜粋、2018年の世界の二酸化炭素換算の温室効果ガス排出量を示す。中国・アメリカ・インドの3カ国で、実に世界の半分の排出量を占めているのが分かる。
IPCCは1988に設立された国際機関だが、地球温暖化問題は、それよりもかなり前から議論されてきた。1970年代には既に問題としては認識されていたのだが、反対する勢力も強かった。 反対勢力の筆頭は石油メジャーだったと言われている。1970年代にエクソンの科学者は独自の調査分析を行い、化石燃料によるCO2が既に地球環境に影響を及ぼしているという分析結果を経営トップに報告した。しかし、科学的に証明されていないという扱いとされてしまった。他の石油メジャー内でも同じようなやりとりがあったと言われている。
米国では、議会や議員に対するロビー活動が法律で認められている。ロビー活動を専門とする、シンクタンクや弁護士組織も多々存在し、表に裏に活動をしている。石油メジャーは、このようなロビーストやシンクタンクを使い、温暖化問題に反対する世論を醸成していた歴史がある。石油メジャーは正式には認めていないが、実際に活動してきたロビーストはその事実を認めている。
この経緯はトランプ大統領政権まで尾を引いていた。トランプ政権時代の環境保護局の再編では地球温暖化問題を否定するシンクタンクから人材が登用されていた。この結果、パリ協定からの脱退声明まで出される事態となった。その後、バイデン大統領になり、ようやく地球温暖化問題に正面から取り組む姿勢に転じ、パリ協定への復帰も表明されたという歴史だ。
◆変革する石油ガスメジャー企業
さすがに最近は、石油メジャーも態度を変化させて、地球温暖化問題に積極的に取り組むとの姿勢を表明している。しかし、一方でエクソンなど経営トップの地球温暖化問題を軽視するような発言が炎上するなど、いまだにきな臭いものが見え隠れしている。とはいえ、地球温暖化対策、脱化石燃料の流れの中で、世界各国のエネルギーメジャーは事業の大変革を進めている、形を変えて舞台裏の駆け引きが続いている。
グラフは2015~2020の石油ガスエネルギー企業の再生可能エネルギー等への投資額を示す。風力発電への投資がずば抜けて多い事が分かる。
地球温暖化対策の国際取り決めとしては「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」の京都議定書が有名だが、1997年の京都議定書は一部の先進国を規制するもので、排出量世界最大の中国を含めた途上国は除外されていた。また米国・オーストラリアも批准しなかった為、効果は限定的なものに留まった。
京都議定書を発展させたものが、2015年のCOP21におけるパリ協定だ。この段階では地球温暖化問題はより広く危機認識がされており、当時のオバマ大統領の働きかけによって中国・インドなど途上国を含めた196か国が参加した。パリ協定では、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のため、次の長期目標を掲げている。
- 世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力をする。
- 21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
具体的な削減目標は、各国が「国が決定する貢献(NDC:Nationally Determined Contribution)」としてして個別に設定して、5年ごとに更新する事になっている。日本のNDCは2020年3月「2030年度に 2013年度比26%削減」としていた。 この後、日本政府は「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。 さらに、2021年4月の気候サミットでは「2030年に、2013年からの46%削減を目指し、さらに、50%に向け挑戦する」事を表明した。 これはCOP26(2021年10月31日開催)を見据えたものである。
今回のIPCCの第6次報告書は重い意味を持つ。英国で開かれる予定のCOP26にも大きな影響を与える事になるだろう。 何といっても、排出量の半分を占めている、中国・アメリカ・インドが本気で取り組まなければ、欧州がいくらのろしをあげても、効果は限定的になる。各国の利害も絡む、難しいかじ取りになっていくものと思う。
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