風力発電の現状と日本メーカーの撤退

地球温暖化対策の打ち手として再生可能エネルギーの普及いが各国で進んでいる。その一つとして風力発電がある。日本でも比較的目立つ場所にモニュメント的に建設されているので、目にすることが多いと思う。風力発電は、世界と日本では普及の状況と、課題が大きく異なっている。日本の地理的・気象的な事情がハンディキャップとなって、その普及を難しいものにしている。再生可能エネルギーの拡大が叫ばれているなかで、大型風力発電設備の製造からは三菱重工・日立・日本製鋼所という名だたる日本メーカーは既に事業撤退を決定した。世界の風力発電の状況と日本の課題を纏めた。


まず世界で風力発電設備はどの程度設置されいるのか。

下の図はGWEC( Global Wind Energy Council)が2021の報告で発表した。世界の風力発電設備の設置データである。中国・USA・欧州で世界の約80%を占めている。日本は1%にすぎない。また陸上(Onshore)と洋上(Offshore)の区分で見ると95%は陸上風車となっている。洋上風車の実績は、設置海域と水深などの条件があり、ほとんどが欧州と中国に限られているのが現状だ。

日本政府は2021年のエネルギー白書で、全電力構成に占める再生可能エネルギーの比率を、2019年の18%から、2030年には36~38%に増やす計画を発表した。

 2030年には全電力の15%(約560億kWh)を風力発電によって賄うという計画だ。 これの前提となる風力発電設備容量の増加計画も、ワーキンググループで検討され、設備容量の増加計画は次の通りとなっている。 

  • 2020年 設備容量実績     4,500MW 
  • 2030年 設備容量計画   15,000MW 

現在の設置容量を約3倍にするというものだ。与えられた期間はあと9年しかない。 単純に考えると、9年間で10,500MWの風量発電設備を設置する事になる。これは最新の大型火力発電所に換算すると約10基分に相当する。大型風車の標準的な単機出力3000㎾級のものを設置すると仮定すると、年間約400基近い風車を建設していく必要がある。

では風力発電設備を製造している主要企業に目を向けてみよう。下のグラフが2019年のシエアである(世界風力会議(GWEC)発表資料)。


残念ながら上位10社に日本メーカーは含まれていない。欧州・米国・中国勢が独占している。これは前出の風力発電の設置国い別グラフの国に合致している。設置実績の多い地域に製造メーカーもあるという状況にある。また上位各社は大型風力発電設備の製造メーカーであり、中小型風車は全部纏めてもその他の数字程度にしかならない。大型風車というのはIECルールでは50kW以上と規定されているが、効率化を求めて最近は設備の大型化が進み、トップシエアのVestasや2位のSiemensの製品ラインアップには2000kW未満の製品はない。最大の機種は次の通り、巨大化している。どれも洋上向けだ。

  • 製造メーカー                 モデル         出力kW  Rotor径m 
  • Vestas (Denmark)             V236-15.0MW        15000kW    236m Offshore 
  • Siemens Gamesa(Spain)  SG14-222DD         14000kW  222m Offshore
  • GE (USA)                          HALIADE-X14MW  14000kW    220m Offshore

(参考写真 出典:Siemens Gamesa HP 洋上風車イメージ)


日本の大型風力発電設備製造メーカーの動向は?

日本で2000kW級の大型風力発電設備を製造した実績があるのは、三菱重工・日立製作所(富士重工より事業移管)・日本製鋼所の三社。更に、日立造船が僅かであるが10基ほどの製作実績がある。中小型の風車メーカーは他に多数存在しているが、規模も小さく異なる製品と思った方が良い。


図:日本の風力発電設置実績資料 経済産業省調査資料数値よりグラフ作成

主要三社は海外への輸出も積極的に行ってきたが、残念ながら各社とも既に陸上風車事業からは撤退してしまった。洋上風力に関しても、三菱・日立は自社開発を断念して、海外のパートナ企業機を使い、自社は販売サービスなどに専念すると表明している。東芝も同様のビジネススキームで事業を狙っている。具体的には、従来のビジネス関係をベースに次のような提携関係を組んでいる。

  • 三菱重工-Vestas
  • 日立-Siemens Gamesa
  • 東芝-GE

なぜ日本企業は、再生可能エネルギーのニーズが高まっているなかで、大型風車の製造開発から撤退するという事になったのだろうか。

そもそも日本は、地理的な制約から大型風力発電の市場が少ない。洋上も、漁業権や洋上利用の期間の制約などから、これまでは導入が遅れていた。カーボンオフセットに向けて、ようやく腰があがってきたという状況だ。

日本企業は、陸用風車だけで事業継続が望めない為、洋上風力への展開を模索していた。そのような背景のもと、日本政府が自然エネルギー利用拡大の為に進めていたのが「福島沖での洋上風車実証試験」だった。試験の内容は後述の補足をご参照願いたい。

実証試験の結果、3基設置したテスト機のうち、2000kW機のみが実運用可能な稼働率を達成したものの、残りの2基は機械的不具合などがあり、稼働率が計画よりも下回る事になった。様々な課題が明らかになったのは実証試験の本来の目的が機能したという事であろうが、そのままでは実機への展開が出来ないという事態になった。ここが大きな事業判断の分岐点となったものと思う。

更に、機種開発を続けて独自の機器を完成させるのか、先行する欧米の製品を活用して設置を加速させるのか。

大型風力発電設備は製品が巨大である為、大規模な生産設備を必要とする。更に、ブレード(翼)やタワーは図体は大きいが、一般的なGFRPや鋼材で出来ている、高付加価値の部品ではない。

また、開発によって発電効率などで技術的な有利さを引き出す事ができるのかといえば、そうでもない。例えば、発電効率を上げる為にブレード形状最適化に資金をつぎ込むよりは、サイズを大きくした方が簡単で効果があがる。コストと出力の効率化を考え、風車はどんどん巨大化している。

片や、カーボンオフセットは待ったなし、風力発電設備の設置を急ぐ必要がある為、これ以上国産機に拘っている時間の余裕はない。

このような背景では、新規の国産開発にこだわっても事業としての成功は疑問、かつ時間的な社会のニーズにも対応できない。という事から撤退の判断になった。残念ながら、止むを得ない判断だろう。

(写真:5000kW実証機 出典:福島洋上風力コンソーシアム資料)


福島洋上風力実証試験とは

経済産業省と国内の主要企業が福島洋上風力コンソーシアムを組成して、浮体式の洋上風力発電設備の実証試験を行ってきた。次の通り、3種類の大きさの洋上風力発電設備が設置された。

  • 2000kW (三井E&S製)
  • 5000kW (日立製作所製)
  • 7000kW (三菱重工製)

下の図は、試験のイメージを示す(エネルギー資源庁の公表資料)

2019年まで試験は行われた、今後の実機発電設備計画に必要な様々なデータが得られたとする研究報告がされている。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は試験の結果、重要な知見が得られたと発表している。計画通りに発電が出来なかった事、設置や保守の工事に大変なコストがかかるなど、洋上風力発電の実機を導入する為の課題は明らかになった。研究開発のプロセスとしては不可欠なもので、稼働率が低かった事だけで、失敗に位置付けるべきではないと思う。

しかし、発電稼働率が低かったため、試験機をそのまま実運用に運用転換する事は困難という結論となり、3基の風車はすべて撤去されることが決定した。 


これまで欧州で進められてきた洋上風力発電は浮体式ではなく、海底に基礎を作り風車を着床させるタイプのものだった。これは水深が約50m以下という比較的浅瀬の多い欧州の海域の特徴から実現できたものだ。

一方、日本の場合は浅瀬は沿岸部分に限られており、実際に使用できる水域の水深は50m以上を前提に検討する必要があった。さらに欧州でも、水深の浅い地域での風車開発は既に進んでしまっており、更に洋上風力を進める為には、水深の深い海域の利用を拡大する必要が生じている。

浮体式の課題は、何といっても、浮体装置と、水深の深い場所からのケーブル設置など、陸上には必要のない設備が必要となり、コストが高いという事だ。現在の実態建設コストは100万円/㎾と言われている。今後、浮体装置の改善、建設方法の改良などで30万円/㎾レベルにすれば市場は大きく拡大するという目論見だ。

日本での再生可能エネルギーの拡大の為には、洋上風力発電に頼る必要がある。福島での試験で明らかになった問題点を、実際の建設計画に反映し、無駄にしないことを願っている。





EneCockpit

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