電力システム改革は今後どうなる?
政府、経産省は今年の冬の電力重負荷期対策で試運転電力などありとあらゆる電力を集め、供給不足に陥らないよう身構えていた。かつ今年の2月10日の東京の雪は昨年の1月6日の大雪に比べては少なかったことも幸いして、電力不足は今のところ問題が生じていない。まずは喜ばしいことである。
今まで電力システム改革以降、東京を中心に発生した電力不足は次の4回である。
1:2021年1月17日
海外のLNG供給設備がトラブル多発したこと、並びにパナマ運河が渋滞してアジアへの米国東海岸からの供給が停滞したことらによりアジアに供給されるLNGが不足した。北東アジア向けLNG価格は2020年から21年1月にかけて18倍に高騰したこともあり、調達量が未達となり国内の備蓄量が不足した。この結果発電所に十分な燃料供給ができず結果として電力不足危機が生じた。電力のスポット市場は最大瞬間500円/kWhまで急騰したが、経産省が200円に上限を設けた。各電力小売業者は大幅な逆ザヤが生じて倒産の憂き目にあった。
2:2022年1月6日
東京地方は朝から冷たい雪が降りしきり、電力需要が急騰しかつ当然のことながら太陽電池は機能しなかった。昼間から火力だけでは電力が足りなくなり揚水を活用して(揚水の先食い)送電したが、このままでは夕方から夜間に揚水がゼロになる危険性がはらんだ。政府は業者並びに各家庭に節電をお願いし、かつ関西地区からも電力融通を行い、窮地を脱した。
3:2022年3月22日
通常、春と秋に発電所はメンテナンスの時期で休止している火力も多い。当日は3月後半にしては寒く、雪交じりで太陽光の電力は期待できなかった。また、3月16日に発生した地震で東電広野火力などが停止中で、そのため送電系統に供給力のアンバランスが生じ、東北の北部からの送電は制限が掛かった状態。政府は「電力逼迫警報」を発令して各需要家に節電を依頼。
なんとか夕方、夜間の停電は回避でき23時に「電力逼迫警報」は解除された。
4:2022年6月27日
2022年の梅雨は6月後半にはあがり、関東地区は煮えたぎる太陽が燦燦と輝いていた。電力重負荷期は7月から始まるため、まだ定検中の発電所が多く、真夏の電力に対応する供給力はなかった。即ち、重負荷期前の梅雨上がり後、6月27日から7月1日までの期間に猛暑が来たため電力逼迫となった。
電力システム改革は2016年には小売りの全面自由化も行い、それまでの総括原価から自由料金へと変わった。また、発電部門と小売電気事業を自由化したことで、今までの大手電力会社が所有していた送配電部門は規制対象に残り法的分離され、中立性の一層の確保を図った。
本来の目的である次の3点は本当に達成されただろうか?
① 安定供給を確保する。
② 電気料金を最大限抑制する。
③ 需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する。
電力システム改革は東日本大震災後の福島第一原子力発電所事故後に、新たなエネルギー政策として鳴り物入りで始まった。震災前は国内の電力代は海外に比べて高いという批判も多く、かつ電力システム改革はすでに欧米では開始されていたため、何らかの改革は急務であった。しかるに残念ながら日本特有の条件を十分に消化せず、最終の姿を論じずに欧米を真似た電力自由化に急にハンドルを切ってしまった。残念仕切りである。
日本特有の条件とは、
① 日本は原子力発電所の停止もあり、かつ化石エネルギーはほぼ100%輸入のためエネルギーバッファが薄い。
② 日本の気象条件、土地制限、海洋条件から再エネポテンシャルが限界。
③ 島国故、他国からの電力輸入はない。また南北に長い島国に加え電力網が過去の電力会社独占対応で構成されているため串型。
④ 3月11日の事故を契機に今まで胡坐をかいていた電力会社を制裁する意図。
⑤ 再エネの最終姿を論じずに他国の二倍の価格のFITを配賦した。
物を売る時、供給量が余っている時は買い手市場になり物の値段が下がる。供給側は需要量に沿った物量を作れば良い。一方、供給量が足りないときは売り手市場になり物の値段が上がる。供給側は能力以上のものを作れないので、需要家は高いものを買うか、あるいは買うのを我慢しなくてはならない。ものの場合は需要量と供給量がアンバランスしても時間が経過すればそのうちバランスする。あるいはリンゴが足りなければミカンを買えばよい。
電力の場合はどうだろうか?電力は周波数を維持するために瞬間で供給量と需要量をバランスさせなくてはならない。供給量に余裕がある場合は発電機を調整して需要量に合わせた電力を発生させるが、余裕がない場合は需要量を減らしてバランスさなくてはならない。従い、最終的には供給不足の場合は輪番停電も行うことになる。
瞬時、瞬時にバランスさせなくてはならず、また一瞬でもバランスが崩れると2018年の北海道の胆振東部地震の時の様に北海道全体で停電してしまう。前述した「電力システム改革の目的」にも書いた通り、電力網の最大使命は「電力の安定供給」である。電力安定供給のためには発電能力(kW)と発電量(kWh)と調整力(△kW)の全てを要求通り満足させねばならない。
電力システム改革で自由化により電気料金が下がると宣伝されたが、あくまでも供給量に十分な余裕がある時のみであり、足りない場合は全く逆になる。小売電気事業者は契約者に電力を供給する義務があり、供給できない場合は旧電力会社からの電力を規制価格の2割増しで購入することで対応するセーフティネットがある。しかし、ウクライナ危機後エネルギーコストが高騰したことで2割増しでも旧電力会社は逆ザヤとなり令和4年度は大幅な赤字となった。また小売電力業者は一時、雨後のタケノコのように事業を開始したが、かなりの業者が赤字になり廃業した。
需要家もある程度の節電は可能だが、電気は基本的には貯蔵できず節電も寒い冬場には限界がある。保管が効き、食べなくてもある程度は我慢できる食料品の売買とは異なる商品だということを十分認識しなくてはならない。
昔は電力供給力不足は夏の午後3時ごろに生じると言われていた。これは夏の暑い午後にクーラー需要が最大となり、電力需要を押し上げるためである。しかし、近年は冬場の夕方が一番厳しい。特に雪が降り昼間の太陽電池の出力が期待できず(揚水に水が溜まらない)、工場などがまだ稼働中で、家に灯りがともり始め、夕餉の支度が始まる5時過ぎが電力供給能力として最も厳しくなる。太陽光は夏場の最大電力には寄与できるが、日中雪が降った冬場の夕方の供給能力には期待ができない。最後の供給力は火力に頼わざるを得ないのが現状だ。
著名な経済学者は「医療、教育、電気は自由化してはいけない」と言っている。これは求める国民に十分な質と量を与える責務が国にはあるということで、必要十分の医療、教育機会を与えるのは一流国の条件である。しかし我が国はコロナ対策で十分な医療を与えることができずかなりの批判を浴びた。教育に関しては意欲と能力のある人間は質の高い教育を受ける権利があり、近年大学までの授業料自由化の議論もされている。一方、電力は今回のシステム改革で発電部門と小売部門を完全自由化したお陰で、安定供給にも支障が生じている。また再エネのあるべき姿の最終形も描けてない。その一方、関電は西地区で旧電力会社同士でカルテルを結び、システム改革の根幹を毀損した。更に、すべての大手電力会社は本来秘匿義務のある需要家の情報を共有するという違反を電力会社ぐるみで行っていたことが判明した。
エネ庁も「電力システムが安定供給に資するものとなるよう制度全体の再点検が必要」と宣言しているが、果たしてこの先どのような方向性とするのだろうか?まず2050年までの本当の全体像を描くのが責務だと思う。
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