グリーン電力の大きな誤解。化石燃料との二人三脚で成立つグリーン電力。
2050年には再生可能エネルギーでカーボンオフセットを目指すことになった人類であるが、グリーンエネルギー、グリーン電力、再生可能エネルギー100%などをPRする広告があふれている。
グリーン電力100%と謳う企業と契約すれば使用する電気はすべて再生可能電力と思われている方も多いのではないだろうか。再生可能エネルギーへの投資を加速する目的でお金をそちらに流す為に作られた制度であるので、お金の流れは再生可能サイドに行くだろうが、肝心の電気はそうではない。グリーン電力証書や非化石証書の制度が乱立して分かりにくい為、企業の広告宣伝をうのみにしている方も多いようなので警鐘を鳴らしたい。
電力の基本は受給バランスが常に同じ同時同量という事だ。このバランスがくずれると周波数が変動したり、停電になってしまう。太陽光発電や風車発電による電力は自然エネルギーであり常に不安定、太陽光は日中しか発電しない、かつ雨の日はほとんど期待できない。風力発電は昼夜変動はないが、風次第で不安定に変わりはない。
自然エネルギーの不安定さを解消するためには電力バランスを取るクッション役が必要となる。それが自然エネルギー以外の様々な発電設備である。市中や企業に電力を送っている電力会社の送配電会社(電力会社のグル-プ会社)は電力需要を見ながら、必要な電力を確保する調整を行っている。自然エネルギーは意図的に増やすことはできないので、電力の需要に合わせて自然エネルギー以外の電力で調整を行っている。
あらかじめ当日の電力需要は予測管理をしているのだが、夏場に気温が急上昇して市中の電力需要が急激に上がるような予想外の事態もある。このような場合には火力発電所などの電力を増やしてバランスを取る。最近は太陽光が普及し比率が高くなっている為、太陽光に合わせて他の発電所の出力を絞って運転している状態も多い。その状態で、突然ゲリラ豪雨により、太陽光がダウンしてしまう場合もある。その場合は、急遽、従来の発電設備の出力アップをお願いする事になる。送配電部門はこのような操作を常に行っている。負荷調整がうまくいかないと、最悪の場合、停電という事になってしまい責任は重大だ。
従って、電力会社の送電網から受電している状態では、100%自然エネルギー由来の電気を買っていますというのは、お金の紐付けの話。物理的には様々な電力のサポートを受けながら、安定した電気を送ってもらっているという事を理解して欲しい。
東北電力の一日の給電実績と太陽光発電・風力発電情報が分かりやすいので、8月20日晴天の平日のデータを下に示す(東北電力ホームページより)。晴れた日中、太陽光発電が急速に増えて、他の電力で出力を調整している過程がよくわかる。太陽光発電は昼頃には全電力の40%近くになり結構高い比率にまで上昇するが、徐々に減少し、夕暮れとともに発電量はゼロとなる。太陽光・風力などの自然エネルギーの電力は天候により変動する為、他の電力源が過不足を調整するという構図になっている。
したがって、自然エネルギー由来の電気だけを物理的に買うことは、電力会社の送電網を使う限りは無理である。自然エネルギーを安定供給する為には火力発電所などによる負荷調整が不可欠、二人三脚だという事を理解して欲しい。(独自の送電系統を持っている小規模のマイクログリッドなどは別)
また、調整役となる火力電所等の設備は、即時に出力負荷調整が出来るという訳ではない。調整にはそれなりに時間が必要となる。太陽光の比率が高くなりすぎると、電力が余剰になって調整困難となってしまうリスクもある。実際に2018年には九州で太陽光発電量が多すぎる状態となり、太陽光発電からの給電停止をせざるを得ないという事態も発生した。太陽光発電が多すぎる為に、調整の限界を超えて停電という笑えない事態も現実的にありうるのだ。
具体的には出力調整をする優先順位は次の通りとなっている。①火力(石油・ガス・石炭)の制御、揚水の活用→②他地域への送電→③バイオマスの制御→④太陽光・風力の制御→⑤水力・原子力・地熱の制御。
地球温暖化問題解決のために、今後、自然エネルギーを大きく増やすという目標があるが、単に太陽光・風力などの発電設備を増やしても解決しない。電力需要・負荷変動に臨機応変に対応できる調整電力を含めて再構築しなければならない。VPP(Virtual Power Plant) など、ICT技術によって多くの発電設備を効率よく運転する技術も進んできたが、数多くの電力会社発電所や産業自家発等々によって維持されている電力構成の再構築は簡単な事ではない。余剰電力の蓄電や水素などへのエネルギー変換も含めて構築していく必要もあり、相当な時間がかかるだろう。
最近のグリーン電力100%の様な報道や会社PRをみると、バブルの様で足が地についていないと強く感じる。自分だけが良い子になって、化石燃料電力を悪者扱いするグリーンエネルギー推進企業も多いが、二人三脚でなければグリーン電力自体が成立しないという大前提を押さえ、再生可能エネルギーの拡大に地道に取組むという姿勢になってほしい。
更に、電力だけを云々するのではなく、ここ数十年で大きく増大した人間のエネルギー消費ライフスタイル自体を見直さないとカーボンオフセットは実現は出来ない。
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